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名木田恵子先生のエッセイ
今月のラッキーアイテム

名木田恵子先生のエッセイ
12月 グッユール!
昨年のクリスマスは、生まれて初めて異国でむかえました。
クリスマスは北欧(ほくおう)のノルウェーで……そう話すと、だれもが「いいですねぇ、クリスマスの本場ではありませんか!」と言いました。
(うふふ、サンタさんにいちばん近いところに行くんだわ! プレゼントはオーロラでいいわ。)なんて、わたしも勝手なことを思いつつ、旅立ちました。

ところが……ノルウェーには、日本で見かける目を見はるようなイルミネーションもなければ、サンタクロースさえいなかったのです。
北欧について学んでいる娘によると、サンタのもとになったのが“ユーレニッセン”。
白い髭(ひげ)、赤い帽子(ぼうし)の小人で、ふだんニッセは(日常はニッセと呼ばれている)農家の納屋(なや)に住んでいるといわれています。
“ユール”はクリスマスを意味する言葉。その日にあらわれる“ユーレニッセン”はとくに“グロット(ミルクがゆ)”が大好きで、“ユール日”、ノルウェーの人たちは“グロット”を作ってユーレニッセンのために軒下(のきした)などにおいておきます。
スーパーでは“グロット”がたくさん売られていました。
国民的休日なので飛行機も最小限の運航、ホテルもほとんどがクローズ。
クリスマスはみんな自宅で、また、友人たちの家で祝うのだそうです。

粉雪の日、贈り物を持った人たちと、ひっそりした空港でフライトを待っていると、航空会社の人がニッセの赤い帽子(サンタのような)をかぶり、アコーディオンでわたしたちが乗りこむまで、歌ってくれました。素朴(そぼく)な、聞いたことのないようなクリスマスソング……。
そう、「メリー・クリスマス!」という言葉はほとんど聞かれず、どこにいっても、ささやくように、
「God Jul」(“グッユール”ノルウェーでのメリー・クリスマス)
その言葉を贈られました。寒いせいなのか、ノルウェーで出会った人たちは、みんなやさしくささやくように話します。

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クリスマスイブの夜、わたしと娘は、深夜、人気のないロフォーテンの港で(ほんとに船が来るのか……。)と不安になりながら待っていました。
港の近くの町の広場には巨大なもみの木がかざられていますが、装飾(そうしょく)はなく、オレンジ色の電球だけ。その光が雪道にはえて、なんともいえず清潔な感じがしました。

定刻を少し過ぎたころ、大きな船が静かに港に入ってきました。その黒い影は、海からきたネプチューンのようです。
乗客はわたしたち以外ふたりだけ。乗組員が船からおりてくるまで、他にはだれもいませんでした。その船で北の“トロムソ”という町に向かうのです。
トロムソに着いたのはクリスマス、25日の午後1時過ぎ……。しかし、もう夕暮れの気配がただよっていました。営業している大きなホテルも半分しかお店は開いていません。
ホテルの人に、「夕食と朝食におくれるとなにも食べられませんよ」と笑いながらいわれました。むろん、スーパーも閉まっているからです。そして、ささやく声で、
「グッユール!」と。

ホテルの部屋の窓から教会が見えました。町のメインストリートであるはずなのに、車も人もたまにしか通りません。町のかざりはハートの赤いランプとオレンジ色の光だけ。
この町にはだれもいないのかもしれない……そう思いかけていた午後4時、もう青い闇がたちこめた中で教会の鐘が鳴りひびきました。
すると、あちこちから、まるで絵画から抜け出してきたように、静かなる人々があらわれたのです。
わたしたちも、ホテルを出て教会に向かいました。異教徒でもあるので、中に入ることはためらわれ、わたしたちは雪の降り積もった教会の外で,もれ聞こえてくる美しい賛美歌に聞きほれていました。ふしぎに寒くはありませんでした。

オーロラを見たのは……
その深夜……もう、夜中の2時近かったでしょうか。
なんとしてでもオーロラを見たい、という娘の熱意に起こされて(半分眠っていた)、防寒装備を整え、外に出ました。
真夜中、町にはまったく人の気配はありません。
わたしたちは、橋をわたって“北極教会”に行きました。
オーロラは気まぐれです。1週間待っていてもまったく見られなかった人もいます。
もし見られなくても、こんなに清らかな、まさに<聖夜>を過ごせたことを喜びたい、と話しました。日の出が遅く、また、日の入りが早い北欧の国、ノルウェー。
しかし、いきなり日が昇るわけでも、暗くなるわけでもありません。うす紙がはがれるように変化していく青のヴァリエーション。その色が白、紫、オレンジ、ワイン色と重なって、何度ため息をついたことでしょう。

体が冷えきって、ホテルに戻りかけたころでした。
ふと、ふりかえったら、そこに<エメラルド色の天女の羽衣>が見えたのです。

わたしは、あわてて娘の名を呼びました。
ふりかえった娘が、小さく息をのむのがわかりました。
オーロラでした。
宣伝写真で見るような、空一面のオーロラではありません。
色もうすいグリーン一色。しかし、深い夜の天空で、それはオーガンジィのカーテンのようにゆれていました。ちょっとした気まぐれで出てきてあげたのよ、とクスクス笑っているように、右に左に優雅(ゆうが)なステップをふんで。
わたしと娘はだまったまま息をつめて、夜空を見上げていました。
だれもいない聖夜のトロムソの町。
なんの音もしない雪の道……。
青い夜の夢の中に取り残されたようにわたしたちは、ほんの数分、その贈り物が消えるまで空を見上げて佇(たたず)んでいました。

今月のバースディ・アイテム
12月幸せを呼ぶケーキ

12月のケーキ屋さんは、お星さまが落ちてきたようにキラキラ輝いていて、
とても素通(すどお)りできません!
ケーキはみんなの笑顔をさそい、幸運を運んでくれるよう……。
わたしの長年の友人、プリンスエドワード島でティルームを営むテリー神川さんは、
一年じゅうお菓子をつくっています。
モンゴメリの研究者でもあるテリー神川さんが出版された、
<赤毛のアン>の時代のお料理を再現した本“『赤毛のアン』のお料理BOOK”より、
12ヶ月のケーキを選んでみました。

1月 <フルーツケーキ>
ドライフルーツを何日もブランデーに漬(つ)けこみ、レーズンやカランツ(小さな山ぶどう)をふんだんに使って焼いたぜいたくなケーキ。モンゴメリがつくったこのケーキの一つは3年ももったそうです。
2月 <クリームパフ>
“シュークリーム”と呼ぶより、ほんとに甘い香りのする貴婦人の“パフ”のようで、カナダ式にそう呼ぶほうが似合っている気がします。(わたしがつくるとペタンコになるの……。)
3月 <マーブルケーキ>
昔はココアではなく“黒蜜(くろみつ)”を使って、マーブルの模様にしたようです。モンゴメリが若いころ、ピクニックに持っていき、みんなをあっと言わせたというケーキです。
4月 <イチゴのショートケーキ>
プリンスエドワード島の昔風のこのケーキは、スポンジケーキではなく、ビスケットを焼いて、つぶしたイチゴをはさみ、生クリームをのせます。ビスケットの味や形で変わってきて、楽しそう……。
5月 <チェリーパイ>
モンゴメリの時代の多くの農家には果樹園があって、りんごやチェリーが実っていたようです。さくらんぼのない季節にはクランベリーなどでつくり、<にせチェリーパイ>と呼ばれていたんですって!
6月 <ニュームーン・プディング>
わたしはずっと“モンゴメリが新婚時代につくったから『ハネムーン・プディング』”だとかんちがいをしていました。正しくは新月(ニュームーン)。モンゴメリの日記に残されていたデザートをテリーさんが再現したお菓子。レモンメレンゲのパンプディングです。(このレシピだけは『お料理BOOK』にのっていません。)
7月 <オレンジ・カスタード>
プリンと同じように卵、ミルク、お砂糖をまぜて蒸し焼きして、これにしぼったオレンジを。ヨーグルトに似ています。とてもさわやか!
8月 <ココナッツパイ>
当時、南の国の果物はまだめずらしかったのね。19世紀のレシピには“乾燥ココナッツを使うときは一晩ミルクにひたして”とあったようです。
9月 <チョコレートケーキ>
アンのお得意のケーキ。テリーさんのレシピは、甘さをひかえてサワークリームのアイシングです。チョコケーキをつくると、“お菓子の家”になったような香りが家じゅうにただよって、やさしい気持ちになります。
10月 <クルミ入りのケーキ>
ピーカンナッツでもだいじょうぶ。このナッツケーキは卵黄を使わず、卵白で仕上げるのもこつです。アイシングはピンククリーム!
11月 <金銀ケーキ>
金のいちょう、銀の葉……と秋のイメージですが、“金”は卵黄。“銀”は卵白だけを使うということが古いクックブックにのっているようです。
12月 <エンジェルケーキ>
卵白だけ(12個分も使うの!)を固く泡立てて焼いた白い羽のようなケーキはとろけるような夢の味……。外は雪……ならもうムード満点ね!

ご協力
『赤毛のアン』のお料理BOOK(ブッキング)より
テリー神川 料理・文
吉村和敏 撮影


わたしは、とてもテリーさんや、てまりの母・麻里子のようにうまくケーキが焼けないのですが、家族は手作りがいちばんおいしいといってくれます。この前のクリスマスはマロンケーキ。今年は、定番の“クリスマスの薪(まき)”(ブッシュ・ド・ノエル)を焼こうかな。みんなもケーキを焼いてみて! そして、すてきなクリスマスをね!



名木田恵子からあなたへ ポエムの贈り物
バックナンバー
名木田恵子からあなたへ ポエムの贈り物 —— 2007年4月 「ノスタルジア」
—— 2007年5月 「かざぐるま」
—— 2007年6月 「ヴァイオレット・ジューン」
—— 2007年7月 「おしゃれな海」
—— 2007年8月 「足あと」
—— 2007年9月 「ありがとう」
—— 2007年10月 「夕焼けのはなしをしよう」
—— 2007年11月 「十一月」
—— 2007年12月 「おめでたい詩」
—— 2008年1月 「還ろう」
—— 2008年2月 「バレンタインディ」
—— 2008年3月 「忘れてしまった日」
—— 2008年4月 「花のゆくえ」
—— 2008年5月 「みんな知っている」
—— 2008年6月 「雨の籠」
—— 2008年7月 「ぴ・あ・の」
—— 2008年8月 「海の言葉」
—— 2008年9月 「足音」

名木田恵子先生のエッセイ
バックナンバー
名木田恵子先生のエッセイ —— 2006年4月 バースディクラブの“ハッピーバースディ!”
—— 2006年5月 五月は素足で
—— 2006年6月 空の如雨露(じょうろ)
—— 2006年7月 星を食べる
—— 2006年9月 9月のドキドキ
—— 2006年10月 地球を虫めがねでのぞいてみたら……
—— 2006年11月 なつかしき☆おきゃーま!
—— 2006年12月 グッユール!
—— 2007年1月 真っ白なページ
—— 2007年2月 天空の城
—— 2007年3月 家族たち

今月のバースディ・アイテム
バックナンバー
今月のラッキーアイテム —— 2006年4月 <誕生石>特集
—— 2006年5月 星座のふしぎ
—— 2006年6月 バースディカップ
—— 2006年7月 月の和名
—— 2006年8月 バースディパーティーへの招待状
—— 2006年9月 英名月のミステリー
—— 2006年10月 季語
—— 2006年11月 偉人・歴史上の人物の誕生日
—— 2006年12月 幸せを呼ぶケーキ
—— 2007年1月 十二支(じゅうにし)
—— 2007年2月 ハート
—— 2007年3月 風
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