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2010年3月1日更新
この本が好き!

この本が好き! 第39回
静かに、熱い、本物の“ヒーロー”の物語
『アラバマ物語』
(なかよし編集部 N)

こんにちは、なかよし編集部のNです。
はやみねかおる先生の「名探偵夢水清志郎事件ノート」
シリーズの漫画を担当しているご縁で、
この原稿を書いています。

ご紹介する作品は、1961年度のピュリッツァー賞を
受賞し、映画化されアカデミー賞も受賞した、
アメリカでは超有名な物語。
アメリカ南部に生きる家族の姿を感動的に描いた作品で、
原題が“To Kill a Mocking Bird
(ものまね鳥を殺すこと)”といいます。

*       *       *

アラバマは、アメリカの南部にある綿の栽培が盛ん
だった州で、「ハート・オブ・ディキシー(南部の心臓)」
とも呼ばれているそうです。
地球儀でさがしてみると、ずいぶん遠くて、
ちょっと縁遠いところのように思えるかもしれません。
物語の主人公・スカウト(本名はジーン・ルイーズ)は、
そんなアラバマ州にあるとされる町「メイコーム」に
住んでいます。

このスカウトが、とにかくヤバい。
なかなかのお嬢様らしいのですが、常にオーバーオールで
疾走(しっそう)し、筋のとおらないことが大きらい。
気に入らない男の子がいれば実力行使、というわけで、
とりあえず校庭でつかまえてけんかをふっかけます。

と書くと、あつくるしい暴力少女のようですが、
その語りはあくまでクール。
スカウトが読み書きの達者なことを、「子どもらしくない」と
とがめる新任の先生のことを、「まだほんのかわいい小娘」
と評したり、子どものような大人のような、
不思議な少女です。

そんなスカウトに大きな影響を与えているのが、
「みたところ、よわよわしかった」という父親・
アティカス(スカウトは父親を名まえで呼びます)。
年齢は50歳近く、「漁には出かけない。
ポーカーはやらない。釣りもだめ、お酒もだめ、
タバコもだめと、だめずくし。ただ、居間で、
本ばかりを読んでいた。」
というアティカスは、しかしどうして、2004年に、
アメリカ人が選ぶヒーロー第1位に選ばれています。
(ちなみに、2位はインディアナ・ジョーンズ!※)
なぜ?

*       *       *

あるとき、弁護士であるアティカスは、
裁判で黒人青年の弁護を引き受けます。
1930年代のアメリカ、しかもメイコームのある南部では、
南北戦争以前の人種差別が明らかに残っていました。
町の人々の多くは、黒人の味方につくのかと、
冷たい態度をとります。
無実の罪をきせられているらしいその青年には、
ほかに弁護を引き受けてくれる人がいません。
執拗(しつよう)な妨害を受けつつも、
アティカスは弁護を続けます。

スカウトと兄のジェムは、父親を応援しますが、
裁判が進むにつれ、しだいに町の大人たちの
知らなかった面を目にしていきます。
「かばってはいけない」とされる黒人青年を
なぜかばうのか、スカウトの素朴な疑問に答える
アティカスの言葉は印象的です。

「二度とふたたび、私のいうことをききなさいなんて、
お前に口はばったいことをいえないじゃないか。
(略)この事件のことで、お前は学校でいろいろ
聞きづらいことを耳にするかもしれないが、しかし、
これだけは、ぜひともやってほしい、いいかい。
頭をぐっとあげているんだ。
げんこをふりあげないことだ。
お前にむかってだれがなにをいおうと、腹をたてず、
気分をかえて、お前の頭とたたかってみるんだ……
たとえ、勉強のさまたげになったとしても、
それはそれで立派なことなんだからね。」

絶対不利の状況の中で、静かに、熱く、
真実を証明しようとするアティカスの姿は、
まさに「ヒーロー」といえるのかもしれません。

*       *       *

この物語には、ほかにもたくさんの個性豊かな
キャラクターが登場します。
スカウトがこの世でもっとも恐れている家政婦の
カルパーニアや、スカウトとジェムがこっそり様子を
さぐろうとする、謎の隣人ブー・ラッドリーなどなど、
ひとくせもふたくせもありそうな人ばかりです。

彼らの多くは、作者のハーパー・リーが少女時代に
出会った人々がモデルになっています。
たとえば、ちょっとえらそうな幼なじみのディルは、
のちに『ティファニーで朝食を』や『冷血』を書いた
作家トルーマン・カポーティがモデルといわれています。

物語では、彼らのメイコームでの日々が、
短いお話をつらねて描かれていますが、最後まで読むと、
それらがすべて、あるテーマを語るために
つながっていたのだとわかります。ヒントは、原題。
「ものまね鳥を殺す」とはいったいなにを
意味するのでしょうか……?

*       *       *

最後の一行まで読み終えたときに、大きな感動がある
この物語。スカウトの語りに「そうそう! だから
大人はさー……。」とあいづちをうつのも楽しいです。

長いお休みの読書におすすめ☆


※AFI(アメリカ映画協会)が選ぶアメリカ映画
 ヒーロー&悪役ベスト100(2006年)

201003(なかよし編集部 N)
『アラバマ物語』

『アラバマ物語』
ハーパー・リー/作
菊池重三郎/訳
暮しの手帖社

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