


こんにちは、なかよし編集部のNです。
はやみねかおる先生の「名探偵夢水清志郎事件ノート」
シリーズの漫画を担当しているご縁で、
この原稿を書いています。
ご紹介する作品は、1961年度のピュリッツァー賞を
受賞し、映画化されアカデミー賞も受賞した、
アメリカでは超有名な物語。
アメリカ南部に生きる家族の姿を感動的に描いた作品で、
原題が“To Kill a Mocking Bird
(ものまね鳥を殺すこと)”といいます。
アラバマは、アメリカの南部にある綿の栽培が盛ん
だった州で、「ハート・オブ・ディキシー(南部の心臓)」
とも呼ばれているそうです。
地球儀でさがしてみると、ずいぶん遠くて、
ちょっと縁遠いところのように思えるかもしれません。
物語の主人公・スカウト(本名はジーン・ルイーズ)は、
そんなアラバマ州にあるとされる町「メイコーム」に
住んでいます。
このスカウトが、とにかくヤバい。
なかなかのお嬢様らしいのですが、常にオーバーオールで
疾走(しっそう)し、筋のとおらないことが大きらい。
気に入らない男の子がいれば実力行使、というわけで、
とりあえず校庭でつかまえてけんかをふっかけます。
と書くと、あつくるしい暴力少女のようですが、
その語りはあくまでクール。
スカウトが読み書きの達者なことを、「子どもらしくない」と
とがめる新任の先生のことを、「まだほんのかわいい小娘」
と評したり、子どものような大人のような、
不思議な少女です。
そんなスカウトに大きな影響を与えているのが、
「みたところ、よわよわしかった」という父親・
アティカス(スカウトは父親を名まえで呼びます)。
年齢は50歳近く、「漁には出かけない。
ポーカーはやらない。釣りもだめ、お酒もだめ、
タバコもだめと、だめずくし。ただ、居間で、
本ばかりを読んでいた。」
というアティカスは、しかしどうして、2004年に、
アメリカ人が選ぶヒーロー第1位に選ばれています。
(ちなみに、2位はインディアナ・ジョーンズ!※)
なぜ?
あるとき、弁護士であるアティカスは、
裁判で黒人青年の弁護を引き受けます。
1930年代のアメリカ、しかもメイコームのある南部では、
南北戦争以前の人種差別が明らかに残っていました。
町の人々の多くは、黒人の味方につくのかと、
冷たい態度をとります。
無実の罪をきせられているらしいその青年には、
ほかに弁護を引き受けてくれる人がいません。
執拗(しつよう)な妨害を受けつつも、
アティカスは弁護を続けます。
スカウトと兄のジェムは、父親を応援しますが、
裁判が進むにつれ、しだいに町の大人たちの
知らなかった面を目にしていきます。
「かばってはいけない」とされる黒人青年を
なぜかばうのか、スカウトの素朴な疑問に答える
アティカスの言葉は印象的です。
「二度とふたたび、私のいうことをききなさいなんて、
お前に口はばったいことをいえないじゃないか。
(略)この事件のことで、お前は学校でいろいろ
聞きづらいことを耳にするかもしれないが、しかし、
これだけは、ぜひともやってほしい、いいかい。
頭をぐっとあげているんだ。
げんこをふりあげないことだ。
お前にむかってだれがなにをいおうと、腹をたてず、
気分をかえて、お前の頭とたたかってみるんだ……
たとえ、勉強のさまたげになったとしても、
それはそれで立派なことなんだからね。」
絶対不利の状況の中で、静かに、熱く、
真実を証明しようとするアティカスの姿は、
まさに「ヒーロー」といえるのかもしれません。
この物語には、ほかにもたくさんの個性豊かな
キャラクターが登場します。
スカウトがこの世でもっとも恐れている家政婦の
カルパーニアや、スカウトとジェムがこっそり様子を
さぐろうとする、謎の隣人ブー・ラッドリーなどなど、
ひとくせもふたくせもありそうな人ばかりです。
彼らの多くは、作者のハーパー・リーが少女時代に
出会った人々がモデルになっています。
たとえば、ちょっとえらそうな幼なじみのディルは、
のちに『ティファニーで朝食を』や『冷血』を書いた
作家トルーマン・カポーティがモデルといわれています。
物語では、彼らのメイコームでの日々が、
短いお話をつらねて描かれていますが、最後まで読むと、
それらがすべて、あるテーマを語るために
つながっていたのだとわかります。ヒントは、原題。
「ものまね鳥を殺す」とはいったいなにを
意味するのでしょうか……?
最後の一行まで読み終えたときに、大きな感動がある
この物語。スカウトの語りに「そうそう! だから
大人はさー……。」とあいづちをうつのも楽しいです。
長いお休みの読書におすすめ☆
※AFI(アメリカ映画協会)が選ぶアメリカ映画
ヒーロー&悪役ベスト100(2006年)

『アラバマ物語』
ハーパー・リー/作
菊池重三郎/訳
暮しの手帖社