ぼくは神奈川県の中高一貫教育の男子校出身である。
1学年4クラス、総勢180人とすくないためか、けっこう結束がかたくて、2年にいちど同窓会がひらかれている。先日も横浜でおこなわれ、でかけていった。
見れば会場に山北(仮名)の姿がある。会うのはずいぶんひさびさだ。そしてこの山北というやつは、爆笑もののエピソードの持ち主なのだった。
それは中学時代、書道の授業でのできごとであった。担当の古川先生(仮名)はもう初老(しょろう)の域(いき)に達していて、わりとかんしゃくもちの印象があった。この先生がなにか質問をして、答えるようにと山北を指名した。
「ボクですかあ。」
と山北がいって、立ち上がろうとしたときだった。古川先生がいきなりどなり声をあげた。
「ブースカとはなんだ!」
これにはみんなボーゼンとなった。つまり、
「ボクですかあ→ブースカ」
と、先生は聞きちがえたのだ。
この日以来、山北に「ブースカ」とあだ名がついたことはいうまでもない。
聞きちがいといえば、ぼくはかなり早口なせいなのかどうか、しゃべったことを聞きまちがえられることがよくある。
たとえば、一週間ほど前のことだ。
その日は快晴で、頭上にはぬけるように青い秋空がひろがっていた。
友人と道を歩いていたぼくは、交差点で立ちどまり、ふと空を見上げた。
すると、白い飛行船がうかんでいるのが目にはいった。(東京では、宣伝用の飛行船を飛ばすことがときどきあるのです。)
「あっ、飛行船だ!」
ぼくは思わず口にしていた。すると、となりにいた友人がいった。
「キクオさんって、だれ?」
つまり、
「飛行船→キクオさん」
と、友人は聞きちがえたのであった。
話はこれだけでは終わらない。これはつい昨日のできごとである。
新宿のライオン・ビアホールで、ぼくはビールとハムカツとあと2品ほど注文し、
「とりあえずおねがいします。」
と、ウエイターにつげた。ウエイターは注文をひとつひとつ復唱して、最後にこういった。
「黒酢はちみつサワーですね。」
へ? ぼくはあっけにとられた。「ンなもん注文してないよ。」といおうとして、はたと気がついた。
つまりウエイターは、
「とりあえずおねがいします→黒酢はちみつサワー」
と、聞きちがえたのだ。
しかし、いったい、どういう聞きまちがいなのだ。「ず」の字しかあってないじゃん、と思いつつも、これからはもっとゆっくりしゃべろうと反省したのであった。
さて。
では、この「聞きちがい」をミステリーのトリックとしてつかえないものだろうか?
じつは、すでに実行している作家がいるのである。青い鳥文庫で「ふつうの学校」シリーズを刊行している、蘇部健一だ。
「驚天動地(きょうてんどうち)のアホバカ・トリック、ユーモア・ミステリの最終兵器!」(講談社ノベルズ版表紙コピー)と絶賛(?)される短編集『六枚のとんかつ』に収録された「音の気がかり」で、聞きまちがいトリックはつかわれている。
ひとつだけネタバレごめんだけど、車がバックするとき、自動音声で「バックします、バックします。」と流れてくることがあるでしょう。その言葉を、
「バックします→ガッツ石松」
と聞きまちがえたために、推理はハチャメチャな方向にすすんでいくという、ホントに大バカなミステリーである。
『六枚のとんかつ』は文庫版もでており、ほかの収録作品もみんな「そ、そんなアホな!」といいたくなる作品ばかりだけれど、ちょっと品のないものもあるので、よい子にはあんまりおススメできないかも。(^_^;)