ホテルまで帰る途中、一軒のおみやげ屋さんで、ロシアの帽子を見つけました。(わかります? ケーキのスポンジみたいな、毛皮でモコモコの帽子のことです。)
テレビなどで、この帽子をロシアの人がかぶってるのを見るたび、ほしいなぁ〜と指をくわえてました。ところが、どこの帽子屋さんにも売ってないんですよね。
それを、みやげもの屋さんの軒先(のきさき)で見つけたと。買わねばなるまい!──ぼくは、こぶしをにぎりしめました。
森定さんとマダム森定さんも、そのお店で買い物をすることにしました。二人は、ぼくのようにこぶしをにぎってません。コンビニへポテトチップを買いに行くようにリラックスしてます。
店に入るぼくは、かなりギクシャクしていたのではないでしょうか。銀行強盗にまちがえられなかったのは幸いです。
店のおばあさんを見つけたので、
「失礼、マダム。店先に出してあるロシアの帽子をほしいのですが、いくらですか?」
というようなことを伝えようとしました。日本語で話しかけるほど、バカではありません。でも、チェコ語を話せるほどかしこくありません。
──ここは、無難に英語でいこう。
そう決心したぼくは、じゃぱにぃずスマイルで、おばあさんに帽子を指さし言いました。
「ざっつ! はうまっち?」
すると、おばあさんはニッコリほほえみました。
──おお、通じた!
感動でうちふるえるぼくに、おばあさんはロシア帽子を手に持ち、「かぶってみろ。」と言いました。チェコ語でしたが、そう言ったに決まってるのです。この状況で、「これは帽子に見えてるが、実はロマノフ王朝のかくし財宝が描かれた地図なんだよ。いまなら、安くしておくよ」などと言うはずありません。
ぼくは、言われるまま、帽子をかぶってみました。……大きい。
「せっかく出していただいたのだが、ぼくには少し大きいようです。もう一回り小さいサイズのものはありませんか?」
これだけの言葉を、ぼくは適確な英語で表現しました。
「びっぐ! すもぅる、すもぅる!」
もちろん、身ぶり手ぶりも使ったことは書くまでもないでしょう。
おばあさんは、ニッコリほほえむと、一回り小さいサイズを出してくれました。かぶってみると、ピッタリです。
「おお、これはすばらしい! まさに、ぼくのために作られたような帽子だ」
感動を言葉で表そうとしたのですが、しばし待て! と思いました。
ぼくは、日本人です。西欧の人から見たら、神秘の国から来た人間です。それが、ペラペラと軽々しく言葉をまきちらしてもいいのでしょうか?
否(いな)!
ぼくはだまってほほえみ、とても満足している気持ちを、おばあさんに伝えました。
おばあさんは、ニッコリほほえむと、指を4本伸ばしました。
彼女も、神秘の国の人間に対抗したのでしょう。言葉を使わずに、値段を表したのです。
すべてを理解したぼくは、おばあさんに4ユーロをわたしました。
ふぅ……。
帽子一つ買うのに、ものすごく体力と気力を使ってしまいました。しかし、心の中は満足感でいっぱいでした。
マダム森定さんが、視界に入ります。
楽しそうに店員さんと会話し、お土産を買ってるマダム森定さん。笑い声も、つくったものではなく、心の底から笑ってるものです。そこには、緊張感やあせりなど、少しも感じられません。
なぜか、ぼくの満足感が少ししぼみました。
で、いま、後悔してること──。
ロシア帽子は、とても格好良く温かいのですが、残念なことに、この帽子に合う服を持ってないのです。(舞踏会に行きたくてもドレスがない女の子の気持ちです。)
ぼくは、基本的に薄着で、常に腕まくりしてます(−6℃のスキー場でも、スキーウェアの腕をまくってるようなバカです)。持ってる服も、薄手の物ばかりです。
──いつか、ロシアの防寒着を手に入れるまで大切にしまっておこう。
現在、ロシア帽子は、タンスの奥で出番を待ってます。
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えーっ!? あの帽子で釣りに行くって言ってたじゃないですか? すごく似合っていたのに。 |
買い物を無事に終え、すっかり自信をつけたぼくは、「プラハ、おそれるに足らず!」──こわいもの知らずになってました。
夕食のレストランへ行く間も、
「道に迷って困ってるプラハの人がいたら、助けてあげよう。」
そんなことを考えながら歩いていたら、なかなか目指す「オリンピア」というレストランが見つかりません。
どうやら、助けがいるのは、ぼくらだったようです。
こんな風に「ホフの呪い」を感じながらも、なんとかレストランを見つけ、チェコ料理を食べることができました。
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このときは、部長の高島さんが大活躍。小型の望遠鏡で、お店の看板を見つけたのでした。 |
さて──。
この旅行記をいままで読まれた方は、料理に関する描写が異様に少ないことに気づかれたのではないでしょうか?
理由は、簡単。
ぼくはカタカナが苦手で、横文字の料理名を覚えてることが不自由なのです。あと、味の感想も「おいしい」か「とてもおいしい」くらいしか書けません。
というわけで、チェコの料理に興味を持たれた方は、インターネット等で調べてみてください。
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ちなみに、チェコのビールは、ヨーロッパ一と言われています。「オリンピア」はホテルの人おすすめのお店で、鹿やらなにやらの肉をはやみねさんはむさぼり食べていました。(編集 森定) |
料理を食べてると、ちがうテーブルから、こちらをチラチラ見てるチェコ人に気づきました。
──なんの用だろう? 料理がほしいんだろうか? やらないぞ!
ぼくは、皿をかかえるようにして、黙々モグモグと食事を続けました。でも、社交性あふれる高島さんたちが、その人たちに話しかけます。
で、二人のチェコ人と一緒に飲みはじめたのですが、この人たち、とても日本語が上手!
その一人、フェルディナンドさん。通称、「フェルさん」。この方は、元チェコスロバキア大使館につとめていたそうで、20年前に日本にいたのです。

もう一人は、タバコ嫌いのヤンさん。フェルさんがタバコを吸うのを、 「あいつはいい奴なんだけど、タバコを吸うのだけが玉に瑕(きず)だ。」
とチェコ語で言って、ぼくらのだれもわからず、英語で言ってくれたのを、森定さんが訳してくれました。それにしても、『玉に瑕』って、英語でなんて言うんでしょうね?
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ヤンさんは、コロンビアからコーヒー豆を輸入している実業家で、独学で日本語を勉強していました。フェルさんは、日本語の師匠、という関係だったようです。ちなみに、ヤンさんの口ぐせは「デンシレンジ〜!」。みなさんも、ためしに大きな声で、むやみに「デンシレンジ〜!」と言ってみましょう。意外とおもしろいですよ。(編集 森定) |
この二人を迎え、ぼくらのテーブルは、盛り上がる盛り上がる!
フェルさんはレストランの店長さんと知り合いだそうで、料理もビールも大量に来ます。6人で飲んだジョッキが、なんと26個!
かなり飲んで酔ったぼくは、語学の達人に変身しました。フェルさんやヤンさんと、ときおり森定さんに通訳してもらいながら、いろんな話をしました。このときぼくは、たくみに英語を話していたような記憶があるのですが、実は、日本語の上手な二人がずっと日本語で話しかけてくれてたのかもしれません。
「今度は、歌える店に行こう!」
との提案で、行ったのはカラオケボックスではなく、グランドピアノが置いてある落ち着いたお店。──チェコに、カラオケボックスがあるかどうかは、いまでも謎のままです。
この店で、高島さんがピアノの腕を披露。ヤンさんが、歌をあわせます。音楽は国境を越えるというシーンを、目(ま)の当たりにしました。

思わぬ出会いで、大盛りあがりしたプラハの夜。
こういう出会いがあるから、旅はおもしろいんでしょうね。
でも、当時のぼくは、
「日本のチェコスロバキア大使館にいた人に偶然会うなんて……。チェコって、あんまり人が住んでないのかな?」
なんて思ってました。
この偶然に、感謝します。
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はやみねさん、フェルさんとヤンさんにぶらさがってますよ。(編集 森定) |
二人と別れてから、ホテルに帰るために乗ったトラム(都電みたいなものです)が、「ホフの呪い」で別方向に行ってしまいましたが、そんなことは気になりませんでした。
いさぎよくトラムを下り、ホテルを目指し、プラハの道を歩きます。
空には、丸いお月様。気分が良くなったぼくは、高島さんと肩を組み、RCサクセションを歌いました。
道行く人が、異国の歌を熱唱する酔っぱらい二人を、異様な目で見てきます。
石の道と石の建物に、ぼくらの歌声が反響し、プラハの夜はにぎやかにふけていきました。
( ´ノω`)コッソリ予告
……「ホフの呪い」は、まだ終わってなかったのです。
<つづく>

































































