「アメリカを代表するビジネス書著者のマルコム・グラッドウェルにインタビューしたい」
「アメリカが、社会の格差問題、是正についてどのように取り組んでいるのかを知りたい」
この二つの目的を果たそうと、2009年4月29日から5月3日まで、勝間和代さんがアメリカ・ニューヨーク取材を敢行しました。
本編は、取材に同行した編集担当者による「NY現地報告」です。
(下記の文章についての文責はすべて担当編集者にあることをお断りしておきます)
5月4日(月) 気になるマルコム・グラッドウェルの「最新情報」をチラリ

長いようで短かったニューヨーク取材を終え、勝間さんと同じ飛行機で一路東京へ戻ります。
「成田空港に着いても、(新型インフルエンザの)検疫のために機内で足止めを食らうかもしれませんから、なにか本でも買っていきましょう」と勝間さん。常に先を読み、時間を1秒たりとも無駄にしないというその姿勢は見事です。
「え〜っと。じゃあ、ワタシも……えへへへ」
翻訳書の編集者をしているくせに洋書を読むのが苦手な(というか読めない)私は、勝間さんの前で思わず見栄を張ってしまい、勢いで『ニューヨーカー』という雑誌を買ってしまいました。見栄の値段は4ドル99セント。はたして高いのか、安いのか……。
実はこの『ニューヨーカー』、アメリカでは非常にクオリティの高い雑誌として知られていますが、人気ライターのマルコム・グラッドウェル氏がときどき記事を執筆する雑誌でもあります。そして偶然ですが、私が買った号にも彼の記事が載っていました。
「HOW DAVID BEATS GOLIATH
When underdogs break the rules」
「ダビデはいかに巨人ゴリアテを破ったか 弱者がルールを破るとき」
なんか、面白そうなタイトルだな……なんといってもグラッドウェルの記事だし……・。
「よし、決めた!」
私、帰りの機中、この10ページの記事を必死に読むことにいたしました。
NYから成田まで約13時間の空の旅。機内で見たかった映画『スラムドッグ・ミリオネア』も『グラン・トリノ』もあきらめて、辞書を片手にひたすら読みましたとも。
「素人同然の女子バスケットボールチームが強豪を次々と破り、快進撃を続けたのはなぜか?」
「アラビアのロレンスこと、T.E.ロレンス率いる弱小軍が強大なオスマン・トルコ軍に大勝したのはなぜか?」
さすがはグラッドウェル、『アウトライアーズ』で見せたような絶妙なストーリーをつなぎあわせて、「ある仮定」から「ひとつの結論」へと結びつけていきます。
もちろん、彼の作品にはつきものの「興味深いデータ」も登場します。
政治科学者であるIvan Toft氏の研究によれば、過去200年間で行われた「強者」と「弱者」の戦争・武力紛争のうち、下馬評通り「強者」が勝ったのは実は全体の71.5%に過ぎなかったと指摘しているそうです。つまり弱者が勝てる割合は3割近くもある……・・?
それでは、その「方法」とは? ……というのが、この記事のテーマでした。
実は、(ちょっと気の早い話ですが)、ここまで読んでくださった「グラッドウェル」ファンのみなさまに「極秘情報」です! これまで『ニューヨーカー』で発表されてきた彼の記事が、まとめて1冊の本になって発売されるらしいのです。
そして私が機内で一生懸命、彼の記事を読んでいたのも、次に再びグラッドウェルに会ったら、こんなジョークをとばそうと思っているからなのでした。
「ハイ、ミスター・グラッドウェル。私はあなたの新しい本をたくさん時間をかけて読み、おかげで私の英語学習時間はとうとう一万時間に達しちゃいましたよ! はっはっはっ」
え? これのどこが面白いのかですって?
(ジョークは全然面白くありませんが、「天才!」第二章に登場する「一万時間の法則」はバツグンに面白いですよ!!)
……・・というわけで、すべてをウヤムヤにしつつ、NY報告、これにて完でございます。
(この後は、「担当者日記」にて引き続き執筆させていただきます・・・・・担当者 拝)
グラッドウェルさん、勝間さん、そしてご協力いただいたみなさまに感謝です!!
5月3日(日) ワシントンD.C.に「貧困」と闘うサムライ日本人起業家がいた!!

本日は取材最終日。今日も早起きです。
アメリカが誇る高速列車「アセラ」に乗って首都のワシントンD.C.に向かいます。
約3時間に及ぶ列車の旅。勝間さんはこんな時も愛用のパソコンに向かって原稿執筆にとりかかっています。車中で惰眠を貪る私とは仕事への情熱が違います。
向かった先は、MFI(マイクロファイナンス・インターナショナル・コーポレーション)という、日本人が2003年にワシントンで起業した会社でした。
周知のとおり、アメリカにはヒスパニックと呼ばれる中南米系の人々をはじめ、世界各地からやって来る移民の方々がたくさんいます。彼らの多くは、アメリカで稼いだお金の一部を母国にいる家族や親戚に送金しているのですが、じつはこの「送金」が一苦労で、手数料がメチャクチャ高かったり、振込先から家族にお金が支払われなかったりというトラブルも頻発しているそうです。
そこで、もともと東京銀行(旧)の銀行員だった枋迫(とちさこ)篤昌さんが「安い手数料で移民の人々が送金できるような金融システムをつくろう。彼らから集めたお金で、彼らのための保険やローン事業もはじめよう」と設立したのがMFIでした。
長い間、「貧困」の現場と向かい合い、銀行口座も持てないような人々の暮らしを支えたい、という枋迫氏の姿勢に共鳴した勝間さんが、「ぜひ会ってお話を伺いたい」ということで今回の取材が実現したのでありました。
写真は、MFIの店舗「アランテ」(スペイン語で「前進」の意味)です。奥に並んでいるのが順番を待つ移民のお客さんです。通常の海外送金手数料が10%から15%も珍しくない中、MFIの手数料は約1〜3.5%。店内には、母国で住宅を建てるためのローン事業や、一家の大黒柱が亡くなった場合に遺族にお金が支払われる保険事業のパンフレットも置いてあります。雑誌や新聞記事で「マイクロファイナンス」(小規模金融。低所得者層を対象に、小口の融資や金融サービスを適切な手数料で提供する)という言葉だけは知っていましたが、こういうことに真面目に取り組む日本人がアメリカにいることが最大の驚きでした。
「移民の方は1日16時間、ふたつの仕事を掛け持ちして働いて、それでも週に400ドル稼げるかどうかです。アメリカで生活するだけでも苦しいのに、彼らは家族のために送金を欠かしません。私たちは、そんな低所得者層、銀行口座のない人(アンバンクト)を対象とした金融のインフラづくりを行っています。貧困というのは人間からすべての『やる気』を奪っていく恐ろしいものです。私たちは、そういう人々に『機会』を提供できればと思っているんです」
なんと。「すべての人々に機会を与えよ」とは、勝間さんはもちろん、マルコム・グラッドウェル氏も本書『天才!』の中で繰り返し、繰り返し主張していた言葉ではありませんか。
取材の最後で、期せずして同じフレーズが語られようとは……私の頭の中で「何か」がつながったような気がしました。
「あと何人、枋迫さんがいれば、(この世界は)変えられるんでしょうね……」
取材を終えた勝間さんが、最後にポツリと漏らした一言が今も印象に残っています。
5月2日(土) NYの真ん中にあるユダヤ人の像は、米国版「二宮尊徳」像だった?

本編とは何の関係もありませんが、じつは私、ホットドッグが大好物。
ニューヨークに来たら必ず(といってもそんなに頻繁に来ているワケではありませんが)立ち寄るホットドッグスタンドがあります。
この日も、仕事の合間をぬって(こっそりと)スタンドに足を運び、アツアツのホットドッグ二個をペロリと平らげ、すっかり満足して帰途についた・・・・・・その途中でした!
「なんだ、こりゃ?」
ミシンがけをしている姿の男性の銅像が、いきなり歩道(ビルの前)に現れたのです。
銅像の題名を見ると「THE GARMENT WORKER」。つまり、衣服を縫う職人さんでしょうか。頭に丸い形の帽子のようなものをかぶっていることから、この職人さんはどうやらユダヤ人の方のようです(後で調べてみると、この帽子らしきものは「キッパー」と言って、ユダヤ教の人々が信仰のためにかぶるもののようです)。
と、いうことは・・・・・・・。これこそ、『天才! 成功する人々の法則』の第五章「ジョー・フロムの三つの教訓」に何度も登場する、かつて「服飾業」に精を出した「ユダヤ人」の「移民」さんではないでしょうか!!!
(誓って言いますが、これはヤラセではありません。本当に偶然見つけたんです)。
第五章「ジョー・フロムの三つの教訓」には、ジョー・フロム氏をはじめ、ニューヨークでもっとも成功した(つまり全米ナンバーワンの)弁護士たちが何人も登場しますが、不思議なことに、彼らには「ユダヤ人の移民出身」で「親や祖父母が服飾業者だった」という共通点がありました。
「え?」「なんで?」「どうして?」
著者のグラッドウェル氏は、そこに隠された、二世代・三世代間にわたる壮大なドラマを本書で見事に描き出しています(この第五章、個人的には私がもっとも感動した章でした)。
貧しくても、仕事がどんなに辛くても、明日への希望を信じ、子どもたちのために、ひたすらミシンを踏み続けた彼らは、まさに「努力」「忍耐」「勤勉」を、わが子に身を持って示したのです。
・・・・・・そんなことを考えているうちに、
「あ、これはアメリカの二宮尊徳像(薪を背負って本を読んでるアレですね)なんだな」なんてことを異国の地にて思った次第です。
「私もがんばります」
心の中でつぶやきながら、思わず拝んでしまったNYの午後でした。
5月1日(金) グラッドウェル・勝間対談ついに実現!!(感涙)

全米でもっとも人気のあるビジネス書著者であるマルコム・グラッドウェル氏。
日本でいまもっとも人気のあるビジネス著著者である勝間和代氏。
野球で言えばON砲(古っ)。
プロレスで言うならBI砲(もっと古っ!)
そんな話はともかくも、ビッグでマーベラスな両者の対談がとうとう実現!!!!!
私、15年間編集者をしてきましたが、今回ほどビッグな対談は、あ・り・ま・せ・ん。
というわけで、本日午後、小雨のぱらつく中、ダウンタウンはグリニッジ・ヴィレッジにあるグラッドウェル氏の自宅に行ってきたのでありました・・・・・・。
インタビュー開始10分前に颯爽と現れたグラッドウェル氏は、そのままダンディなスーツに着替え、さっそく勝間さんと撮影・対談開始。
アメリカに来ておきながら何ですが、私、英語はサッパリですので、とりあえず、なんとなく意味がわかったところだけを拾い書きすると・・・・・・。
「僕はね、アカデミック・ワークのトランスレーターなんだ」(グ)
「どうやってカギになるストーリーを見つけるんですか」(勝)
「うん、それはね・・・・・・・」(グ)
あ〜っっっっっ!!! もっと書きたい!! でもガマンです。この模様は、近日発売の某雑誌と、ウェブにてドカーンと紹介される予定なので、あんまり先走ってはいけないのです(本当は全編英語で行われた両者の対談がさっぱり理解できず、メモが取れなかっただけ)。
どうやら、対談の中では
・『アウトライアーズ』(『天才! 成功する人々の法則』の原書)を書こうと思った経緯
・グラッドウェル氏のユニークな“アイデア発想法”について
・日本の愛読者に向けたメッセージ
などもたっぷり語られた模様です。
う〜っ。私も早く読みたい!!
ちなみに、この対談はビデオ収録も行われましたので、こちらも近日中に当ウェブサイトやアマゾンなどで随時アップしていく予定です。
言わずもがなですが、グラッドウェル氏にズバズバ切り込む勝間さんの英語インタビュー、とってもカッコイイです。
ぜひ乞うご期待!!
4月30日(木) ブロンクスの“秀才学校”は「ちびっ子ブートキャンプ」だ!

車でマンハッタンを、ずずずーっと北上し、朝の9時きっかりにサウス・ブロンクス地区にある「KIPPスクール」に到着する。
KIPPとはKnowledge Is Power Program、つまり「知識は力なり、プログラム」の略だ。ここは、面接と抽選で選ばれたブロンクスの子どもたちに徹底した英才教育を施す、いわば、貧しい街(事実ブロンクスには低所得者の住民が多い)の“秀才学校”なのである。
この学校は『天才! 成功する人々の法則』の第九章「マリータの取引」にも登場する。シングルマザーの母親と二人暮らしのマリータは、この学校に入学し、ほぼ週6日、朝から夕方までみっちりと授業を受け、夜は自宅で宿題漬けの生活を送っている(まだ12歳だというのに、朝は6時前に起床!)。
「今ではお友だちはKIPPの子だけです」と彼女は言う。昔からの近所の友だちはみな、マリータのことを「ガリ勉」と嫌がって、どんどん彼女から離れていってしまったのだ。
傍目には過酷な学校生活に思えるかもしれない。だが、一生懸命勉強した同校の卒業生の多くは、そのまま高校・大学へと進み、より優れた教育を受け、より高給の仕事に就き、より良い暮らしを送るための道が開かれる。
つまり、この学校は、貧しい家の子どもたちに、より多くの「機会」を与えている……。
本書は指摘する。子どもたちが貧しい境遇から抜け出すための「機会」を、このエリート学校はたしかに与えている。そしてそのために子どもたちは、出自というアイデンティティやコミュニティを“捨て去らなければならない”のだと……。
(このあたりの興味深い議論の詳細については、ぜひ上掲書をご覧くださいね)
「学校の運営費用はどこから出ていますか」
「ドロップアウトする子どもたちは?」
取材に対応してくれた同校のマネージング・ディレクターに、勝間さんが英語でどんどん質問をぶつける。
学校の壁には「WORK HARD」「BE NICE」「LAWS OF SUCCESS」などといった標語やスローガンがあふれ、大学に進学した同校の卒業生たちの名前が誇らしげに飾られている。
子どもたちの制服(というか、Tシャツが制服)にも「Impossible is nothing」といった文句が並ぶ。授業はまるで「ちびっ子たちのブートキャンプ(新兵訓練所)」といったような雰囲気である。
だが、この“秀才学校”の正体は、徹底した管理教育型の学校なのかもしれない。仮に日本に、こんな学校があったとしたら、その学校は評価されるだろうか、それとも……。
いろいろなことを考えさせられた見学であった。
(この取材の詳細は、近日、他のメディアにて公開される予定です)
4月29日(水) マンハッタン・クラムチャウダーの誓い
あいにく最悪のタイミングになってしまった。豚インフルエンザである。
ここニューヨークでも感染したとおぼしき“推定患者”の数が増え、一時は取材中止も真剣に検討されたのだった。
し・か・し! そんな状況であるにもかかわらず、しかも超多忙の身にもかかわらず、勝間さんは、予定どおりニューヨークに駆けつけてくれたのである。
グランドセントラル駅地下のシーフード・レストラン「オイスター・バー」で、ともにマンハッタン・クラムチャウダーをいただきながら、勝間さんは力強く言ってくれた。
「ここまで来たからには、頑張りましょう!」
すごく嬉しかった。
皿に「どぷん」とたっぷり入ったクラムチャウダーがちょっぴり塩辛かったのは、もとからそんな味なのか、はたまた、涙が混じってしまったからなのか……。
「勝間さんを無事に日本に帰国させねば。もちろん取材も成功させるぞ!」
……勝負の前からカブトの緒を締めてしまうセッカチな担当編集であった……