
| 「『私小説』文庫化によせて」 岩井志麻子 |
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「小説現代」に私小説を書くようになって、どれくらい経つか。連載がまとめられた最初の単行本『私小説』を改めて読み返し、知る。5年だ。もう、とも、まだ、とも感じる。 この頃は、書くため男に会う私ではなかった。ベトナムや韓国に行くのは、小説のためではなかった。何より欲しているのは私小説、ではなかった。それだけは感じる。 すでに『私小説』の続編である『黒い朝、白い夜』も刊行され、そろそろ現在進行中の連載もまとまって、第3弾が出そうな季節を迎えている。そうして最初の『私小説』は、文庫化を迎える。その年月が長いか短いかはさておき、確かな一区切りには違いない。 自分で自分の小説を古びたというのは、謙遜か不遜か。愛着か愛惜か。読み返せば、今とはずいぶん状況が変わっている。こんなに夢中だったベトナム愛人は、完全に遠ざかった。『私小説』には登場せず、『黒い朝、白い夜』に出てくる中国人青年も、現在は音信不通だ。進行形で書いている小説には、新たな韓国の青年Jが登場している。 あきれるほど変わらないのは、内縁の夫と呼んでもいい韓国の男だけだ。『私小説』の中で借りたソウルの部屋には、5年後の現在も一緒に暮らしている。 先日、その韓国の男と喧嘩をした。彼は出て行きますと一言いい、氷点下のソウルの町に出て行った。てっきり一杯ひっかけてから帰るのだと思い、東京にいるマネージャーに電話してアイツはまったく、と笑いあってから切り、そのまま寝入った。 彼が帰ってきたのはまるで知らず、気がつくと隣に寝ていた。ところが彼は、知らない間に同じく東京のマネージャーへ電話していたのだ。 「私は志麻子と別れたいと思いました。一人、外で寝るつもりでした。でも寒くて寒くて、帰りました。志麻子泣いているだろうなぁと。そうしたら志麻子、ぐうぐう寝てました。でもその寝顔を見ていたら、悔しいけど家族なんだなぁと思い、別れるの止めました」 そのときのマネージャー、そして後から聞かされた私は、爆笑した。彼は独り悲劇を気取っているのに、傍から見ればマヌケで。彼に愛しく思われる私も客観的に見れば、ただ図太い残酷な女でしかない。こういう滑稽さが、ちゃんと書けているかどうか。性愛をリアルに書けているかどうかではなく、今はそちらの方が気がかりだ。 |
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