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TURNING POINT
25.JUNE.1998
富野由悠季総監督よりの修正指示メモ。あまりにラディカルな第1回提案に対し、あえて保守的な軌道修正を指示。保守的とはいえ、サンライズ若手スタッフの総意でもあり、後に正しい判断であったといえる。
from YOSHIYUKI TOMINO to Mr.SYD MEAD
 ミード氏の第1稿をいただいた月曜日は、小生もスタジオの設定関係の若者たちもカルチャーショックを受けて、思考が作動しませんでした。
 最低1日はクッションをおかなければ、討論することもできなかったのです。
 ショックを与えられるほどの力をもっている原稿ですから、若者たちはミード氏が何を考え、どのようにデザイン化しようとしているのか検討してくれました。
 あまりにも考えることが多く、新鮮でスリリングな数日を我々は体験しました。
 そこでまず我々が知ったことは、我々は、旧来のガンダムのデザインとそのポリシーに囚われ過ぎていたと認識を得たことであり、文化の違いがもつものがある、という認識でした。
 次に得た認識は、SF的に洗練していくとミード氏のようなデザインになり、かつ、大河原、堀口の提案を含んだものを融合させ、完成させるデザインというのはこのようなものであろう、という合意でした。
 このようなものを提供していただけたことについて感謝します。なによりも、ミード氏のような方が全力をもって、我々が発したコンセプトであるモビルスーツのデザインに取り組んでくださった事実を獲得できたことで、我々のプライドを高めてくれたという喜びがあります。
 この事実だけでも、我々は胸を張れると感じました。本当にありがとうございます。
 ミード氏の原稿がもつガイドラインは、今後の10年以上生き続ける強力なコンセプトであると信じています。

 その上で、業務として、また、市場に対してデザインの実現化についてどう考えるか、どのように改善していくかということは、現実的な問題として残っています。
 これについては、とりあえず市川さんに口頭で伝え、それについて、ミード氏も同意する部分があるというファックスはいただきました。
 しかし、口頭で伝えた部分はあくまでも小生のファースト・インプレッションですから、概括的なものでしかありません。なにしろ、カルチャーショックのなか、思考力が停止している状態に近いところで電話したものですから‥‥‥。

 以下、我々の見解を申し上げますが、前提は、市場を形成する性癖はクリエーターの感性とは違う、ということです。
 どのような作品であれ、「世間に広く受け入れられるもの」と「いいもの」は違う、という現実に直面せざるをえないのです。
 ガンダムを製作するということは、商売的に成功しなければならず、その利益によって我々の原稿料も発生するのですから、市場の好みを考慮する必要がありますし、作品が発表される形態につても、考慮する必要がございます。
 まず、市場は保守的だということです。
 1960年代でしたか、トヨタのカー・デザイナーがファースト・バックを目指したにもかかわらず販売の観点からセミ・ファースト・バックが採用されて、商売が成功したという例を小生は知っています。
 フォルクスワーゲンのビートルが、今日まであの第2次大戦以前にデザインされたビートルを越えたという事実には出会っておりませんし、ローパーのミニ・クーパーも同じようなデザインであろうと考えます。
 ダグラスDC-3を越えた旅客機はボーイング(BOEING)のジャンボだけでしょうが、あれも10年以上使用されて認知されたデザインだと認識しております。
 ガンダムは20年現役であったデザインです。
 ここの事実は、製作者、原作者の好みを超えた要素が内含されてしまっている素材である、と理解しなければならないということです。
 この市場の好みを端的にいえば、「ミリタリー趣味」につきます。ミリタリーの空間、ミリタリーの質感、それを構成している線(外形を形作るもの)の格好良さです。
 これは、SF的な要素やフィーリングとは異質なものです。
 昨今のハリウッドの作品でも、純粋にSF的なものはヒットしませんでした。『ブレードランナー』も『2001年宇宙の旅』も、大ヒットではなかったと認識しないと、仕事を間違える、と自戒します。
 好きな作品をこのように言わなければならないのが、市場を考えるということだと考えます。

 乱暴な言い方をすれば、メカニカルな感覚がいい、という一般的な着想はミリタリズムにあるといってもいいかもしれません。(あくまでもモビルスーツの問題として)

 その背景にあるものは、マシーンそのものについては、「機能が分かり易いデザイン」であり、時代性について考察すれば、現実では、ミリタリー的なものが否定され、その存在が希薄になっていますから、憧れの対象として、今後ますます成熟する好み(嗜好)になるであろうと予測します。
 つまり、エンターテイメントの世界では、ますます隆盛するジャンルだと思うのです。
 大河原デザインの第一ポイントは、たまたまそのミリタリー感覚を触れる事ができたデザインであったということ。
 第二に、彼のブロックと面の組み合わせ(または服を着せるような)原理的なデザインが、絵の上手なアーチストによって、いくらでも格好良くリファインできる要素だけを提供していたという点にあるといえましょう。
 その上で、アニメーションの隆盛によって、ロボット的なマシーンがキャラクター(人格化)し得る表情とシルエットも持っていたという点が、重要なポイントです。

 ですから、
 clickM-JとM-Lのシルエットは、グレート!です。
 まったく新しいシルエットを提供してくださっていますので、モビルスーツの新しい系譜として使えます。
 さらに、キャラクター性についていえば、O-Dの機能説明の図案は、モビルスーツのユーモアな側面から想像のできるキャラクター性が認められます。
 ですから、これから予測できることは、ミード氏にも、キャラクターとしての新しいガンダムは描ける、という断定です。

 以後のまとめ方、思考の働かせ方は、ミード氏のSF的に思考とセンスをセーブして、表面的なラインをミリタリー的に改変しながら、キャラクター性を創作するということでしょう。
 しかし、冒頭で述べたように、ミード氏の工学的なセンスによってまとめられたO-J、O-Kの秀抜なアイデアは、絶対に採用していただかなければなりません。
 「面」の問題については、セル・アニメのもつ表現の不自由さと何十人ものアニメーターに描かせることを考慮して、凹凸感を取り入れる必要があると認めていただきたいのです。

 ミード氏は絵描きですから、ご自分の筆で質感を描くことができますが、この点は、アニメでは決定的に期待できません。それに、CGでは流行っている金属面の「写り込み」は、この物語では採用しないつもりです。塗装にしても材質そのものも光を反射する性質はないとしたいのです。
 姿形は、中肉中背のハンサム、スリムなキャラクターを獲得するためのデザイン化ということです。肉体のくびれるところはくびれ、出ているところは出ている普通の感覚を持ち込んで下さい。
 女性は人間に興味をもちます。人形好きということです。本来、女性の市場を考慮する必要はないのですが、機械好き、ミリタリー好きの男性でも、本能的なヒーロー願望があるのですから、キャラクター性の創造という点は充分に考慮しなければなりません。
 ボディビルダーが、一般的嗜好から離れて一部の趣味に陥っているのは行き過ぎたマッチョマンさがあるからで、強すぎてはいけないということです。

 ミリタリー的な指向は「機能が分かり易いデザイン」の格好良さなのですから、O-J、O-Kの機能が、外見的なデザインからも予測できるものであればベターということです。

 以上、思い付くままに書きましたが、結論的にいえば、ガンダムという主人公モビルスーツのデザインは、キャラクターを創作するために、SF的処理は極力我慢して、人形としての顔をのせて、兵器を外装にすることでアニメ・メカ(ANIME・MEKA)にする。つまり玩具です。
 そして、ミード的SF処理を施されたモビルスーツや、背景モビルスーツは、その周辺部に配置するという考え方です。
 とはいえ、現在の段階でミード氏に∀ガンダムのリファインはしていただかなくていいとは考えておりません。
 近日中に、大河原氏からも堀口氏のベクタードノズルのコンセプトを取り入れたデザインが出ると思いますので、それをベースに再度お考えいただければいいのではないか、とも考えます。

 余談となりますが、当方は零戦の改造をお願いしたつもりだったのに、グラマン・ヘルキャット以上の爆撃機を提案されてしまった、という印象があるということをお伝えいたしておきます。
 1998年6月25日 富野由悠季


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