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2002年 日本代表の真実 中田英寿痛かった右足
ベルギー戦、ロシア戦
開始早々のアクシデント

6月4日、青一色の埼玉スタジアム、アクシデントは試合開始からわずか4分後に起こった。

ベルギーのFKをゴール前で弾き返した日本のカウンター攻撃。自陣左サイドでこぼれ球を拾った中田英寿はするするとボールをキープしてベルギー陣内へ入った。中田の前、同じ左サイドを駆けあがり、きゅっと内に切れ込んだ柳沢敦へ、中田は絶妙のタイミングでスルーパスを送る。

日本代表、最初の好機に青いスタジアムが騒然となった。だが、柳沢がパスを受けるのと同時に、副審のフラッグが上がる。スタジアムの観客の視線のおそらく7割は柳沢、2割は副審の旗にむけられていたことだろう。観客のほとんどが気づかないところで、中田は大きな傷を負っていた。

スルーパスを出す直前の中田に、後ろから追いついたのはベルギーの主将ウィルモッツだった。

「試合開始そうそう痛めた俺の右足首だけど、ボールを蹴ろうとした瞬間にその足を引っかけられ地面に足を突き刺した感じになってしまったんだよね。その結果、足首をゴキゴキって感じでひねってしまい、軽い捻挫になってしまったんだ。やった瞬間は久しぶりに痛かったね〜。まあ、結局最後までプレイできたけれど……。まあ次の試合には問題ないと思います!!」

試合後、中田はこう右足のケガの状況を自身のホームページで明かしている。

あらためてベルギー戦の国際映像を見てみる。右足でパスを出すと同時に、中田はウィルモッツに立ち足の左足をひっかけられバランスを崩す。ボールを蹴った直後の右足で踏ん張ろうとして、右足を捻挫してしまったのである。顔をしかめ、右足を気にする中田。ベンチではトルシエ監督が小笠原にウォームアップを指示し、ほとんどの観客同様に中田のケガを見逃したTV解説者が「意図がわかりませんね」と、思わず口にする。

6月9日、日本代表にある政治家から「乃木神社」の必勝祈願のお札が届く。

「日露決戦なら東郷神社じゃねえか?(笑)」

冗談を飛ばす選手たちには、余裕が感じられた。

だが、ロシアはやはり日本の主軸をつぶしに北。

ロシア戦・国際映像より
(c)Sky PerfecTV!

前半6分、今度はセンターサークル付近からドリブルでシュートレンジに入ろうとする中田を、スメルチンの深いタックルが襲う。両足を払われてしまえばまだよかった。スパイクの裏を見せた深いタックルは右足1本で踏ん張る中田の足首をもろに直撃したのだ。TV画面から「グキッ!」という音が聞こえてくる。(写真)中田はその後も一見、ふだんと変わりのないプレーをつづけた。スメルチンは前半30分にも、中田の右足を狙ってきた。後半26分、バーをたたいたシュートはその右足から放たれた。

歴史的勝利に沸く、試合後のロッカールーム。大ハシャギの小泉純一郎首相にゴン中山が、「感動しました?」と軽口を叩いていた。だが、その場で中田の足首を見たサッカー協会幹部は愕然としたという。

「右足の腫れがかなりひどいんです。あんな状態でピッチに立つというのは、よほどの決意がなければできない」

大会中のキャンプ地、静岡県の葛城北の丸ではメディカルスタッフが24時間体制の献身的なケアを続けていた。メディカルルームで治療を続ける中田の姿を見て、山本昌邦コーチはなぜか中田がU-17日本代表にいた頃の少年の面影を思い出したという。

「よくぞここまで成長してくれた……」

別メニューで調整を続けた中田だが、足の腫れはくるぶしがわからなくなるほどになっていた。

“痛み止めの注射を打ってでもピッチに立つ。”

こんな決意のもとに迎えたチュニジア戦。

中田は、痛む右足から繰り出したパスで、後半3分の森島のゴールを演出した。2点目は、中田自身のW杯初ゴール。ヘディングシュートでグループリーグ突破を確実なものにした。

トルコ戦で見せた
献身的な動きの陰で……

ベルギー戦後、自分のケガを公表した中田は、以後グループリーグ中、ホームページでまったく右足の捻挫に触れなくなっていた。マスコミが、ケガについて、別メニュー、足首のテーピングの様子などを詳細に報じ出したためだけではないだろう。周囲の人たちがわずかに漏らしたように、右足首の捻挫と、それに追い打ちをかけるような敵の狙い撃ちが相当ひどい状態になっていたからではないのか。

それでも中田は、グループリーグ3試合とも抜群の危機察知能力で相手のスペースを消す走りを見せ、大声で味方守備陣に指示を出した。自分をマークする選手を引っ張って、スペースを作り、稲本が攻撃的にプレーするお膳立てを何度もしている。

決勝トーナメント1回戦のトルコ戦。あらためてビデオを見なおしてみると、中田は右足でのロングパスをほとんど出していないことがわかる。先発メンバーの変更で混乱状態にあったが、深い位置からの右足の効果的なロングキックは姿を消している。

もちろん中田は試合終了まで、味方のスペースを作り、敵のスペースを消すフリーランニングを献身的に繰り返していた。ナマで試合を見たときは、中田ひとりがふだんどおりの動きをしているようにも見えた。だが、腫れた足首は悲鳴を上げていたのではないか。W杯後、南仏でのバカンスでも、中田の右の足首の腫れが少しも引いていなかったという姿は目撃されている。

期待にこたえられない足を抱えていながら本番で期待以上のプレーをする。彼らしいといえば彼らしい。

欧州でもすでに相当の評価を得ている中田にとって、W杯はもはや自分を売り込むための場所ではない。選手生命を考えて、ケガで大事をとった高給取りはたくさんいる。それでもなぜケガをひた隠してプレーしたのか。責任感? サッカーが好きだから? 一番大きかったのは、並外れた勝利への執念だったのではないか。

その執念は欧州というアウェーの地で苦闘する彼の、アジアを区別するヨーロッパには負けたくないという決意のようなもの……。もしかすると、ホームへの郷土愛のようなものだったのかもしれない。


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