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Vol,5 『世界と日本の距離感』を探る (7 Jul, 2003)


『世界と日本の距離感』を探る
『FOOTBALLnippon』編集部では、現在、次号の制作に向けての準備が着々と進められている。今のVol,4号は『世界と日本の距離感』を探るという視点を軸に、日本のサッカーの現状を見ていこうとしている。 『距離感』−−この言葉、ニュアンスとしては、例えば『差』や『違い』という言葉に置き換えることも可能だろう。
 では、世界と日本との『差』や『違い』とは? 具体的にどういうものだろう。
 スポーツの分野では、最近海外での試合やプレーの報道が増えている。テレビや新聞、雑誌などを通じて、世界と日本との『差』や『違い』を知る機会も多くなった。例えばサッカーでは、中田英寿や小野伸二、中村俊輔など、海外クラブに移籍した選手の試合でのプレーや、コンフェデレーションズカップのような日本代表が参加した国際大会での姿は、今ほとんどがライブで見ることができる。その姿を見ることで、日本とは異なるサッカーがあり、日本人とは違った特質を持った選手がいて、世界の中で日本の実力はこの程度だろうという距離感を知ることができる。
 つまり、彼らが海外に出て、アウェーの場で戦う姿を見せてくれることで初めて、サッカーファン同士が「日本はまだまだだ」とか、「日本人はフィジカルが弱い」とか語り合ったりできるのだ。
 しかし、そこで語られている『距離感』や『差』、『違い』はあくまで“三人称”であり、実体験を元にした“一人称”のものではない。

具体的な『距離感』を得る難しさ
 私たちの元には日々さまざまな情報源から、刻々と海外のニュースが送り届けられている。その中で『世界と日本の距離感』を感じさせるものは多い。しかし、それはあくまでVol,三者を通した間接的な『距離感』の認識だ。スポーツだけでなく、例えばイラクを始めとした中東問題にしても、私たちが得ているのは所詮、“伝えている誰か”が感じたイメージの共有でしかない。つまり、『メジャーリーグのピッチャーは、日本の野球の投手と比べて球質が重い』かどうかは、実際に体感した人にしかわからない感覚であるし、中東の真の実情も、自分の目で見た人にしかわからない、ということだ。
 そう考えていくと、世界との距離感を持ち、『世界の中での日本の現在位置』を体感した基準として持っている人は、日本人では案外少ないのではないだろうか。
 国境が陸続きなヨーロッパなどと異なり、島国・日本ではなかなかアウェーで異文化交流する機会がない。サッカーでも、Jリーグで最上位クラス以外の実力のクラブに所属する選手は、海外のチームと真剣勝負する場を経験するチャンスはそうそうない。それどころか、鹿島アントラーズやジュビロ磐田でさえ、アジアのクラブ大会の枠内でしかそういった機会は持てないのが実情だ。
 つまり、各年代の日本代表に選ばれるか海外クラブに移籍しない限り、日本人サッカー選手は『世界標準と日本の標準との距離感』を実体験するチャンスがないということだ。

選手が海外移籍を希望する理由
 日本代表選手にインタビューする中で国際大会での話を聞くと、必ずといっていいほど語られるのが「世界と自分との“距離”を、身を持って感じることができたのが収穫」という言葉だ。
 福西崇史選手は、日本代表としていろいろな国と試合をすることで、「どこにボールを置けば自分はボールをキープできるのか、長い足でボールを触られてしまうのか」といった日本人とは異なる間合いの取りかたや、体格や体質から生まれるプレーの質の違いなどを体感したという。そこで得た感覚を自分のサッカーの基準とし、それ以降のJリーグの試合の中でも常に世界基準を意識しながらプレーしているという。そして、そこに新たな技術の進歩が生まれると思う、と言う。
 宮本恒靖選手は、U−17、ワールドユース、五輪という各年代別世界大会、そしてワールドカップという真剣勝負の場で、世界の本当の底力を身を持って体験できたことで、“自分の現在位置”をはっきりと知ることができたと言う。
「自分のプレーの何が通じて、何が足らないのか」を認識することができ、これから何をすれば“世界基準”に近づけるかの具体的なプランを自分の中で組むことができた、と言う。
 彼らが国際試合で得たのは、つまり、『日本で通用するプレーが海外では通用しないものが多い。しかし、海外で通用するプレーならば、日本でも通用する』という教訓だ。そして彼らは、そんな教訓が生まれる要因は単に『海外のサッカーのレベルが高く、日本のサッカーのレベルが低い』ということだけではなく、『日本で通用する“基準”が世界では通用しないドメスティックなものだから』ということを実体験から知った。だからこそ、日本代表を経験した選手の多くが、海外クラブ移籍を希望するようになるのだろう。

世界から見た日本の現在位置
 昨年、イタリアのプロフットサルリーグ・セリエAで、日本人フットサル選手として初めてプレーした相根澄が面白い話をしてくれた。
「日本人はフィジカルが弱いと言われますが、肉体の造りの違いより意識の問題が大きいと思う。イタリアでは練習から常に試合を想定して激しく体を当て合うので、特別にウェートトレーニングをしなくても、自然と試合中の厳しいチャージにも耐えられる筋力とテクニックが積み重ねられていきます。でも、日本では練習中にチームメイト同士でそこまで強く当たる意識がない。いざ試合で海外のチームと戦うときに出るフィジカルの差は、そういう部分が大きく影響していると思います」
『日本人はフィジカルが弱い』という言葉は常套句として使われる。しかし、それだけでは何の問題解決にもならない。世界と日本とに『差』や『違い』が生まれている理由の一端を指摘し、改善策を提案できるのは、彼のような実体験に基づく具体的な経験から得た“世界基準”を知る人だけだ。
 柳沢敦を始め、この夏も海外クラブに移籍する日本人選手は何人も出てくるだろう。そして、すでに海外クラブに所属している日本人選手の多くも、来季も引き続き海外でプレーすることになるだろう。そんな彼らが日々の実体験で感じている“世界基準”と、その基準から見て今の日本のサッカーに足りないものを炙り出すことができれば、世界の中での日本の現在位置がわかってくるのではないだろうか。
 具体的な『世界と日本との距離感』を、“世界基準”を実体験で得ている人物を取材することで日本のサッカーファンに伝え、日本のサッカーを変えていく−−次号の『FOOTBALLnippon』が目指さなくてはならないのは、その発火材となることなのだろう。
 9月16日の発売に向けて、そして発火材となるべく、『FOOTBALLnippon』編集部は動き始めている。

(2003年7月3日 伊部)
文=伊部塁(いべ・るい)
1971年滋賀県生まれ。主にスポーツを対象とした取材を行い、『FOOTBALL nippon』を始め、『スポルティーバ』や『サッカーダイジェスト』などのスポーツ雑誌に原稿が掲載されている。現在、フットサルという競技に魅力を感じ、鋭意取材中。『FOOTBALL nippon』では、主に『選手物語』や『サンクチュアリ』、『大住良之&後藤健生対談』などを担当している

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