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Vol,7 ジーコ日本代表監督 (1 Aug, 2003)

 1回の表から、今岡が凡退すれば毒づき、井川が完投目前の9回にフォアボールのランナーでも出そうものなら、優勝へのマジックナンバーが「ふえて」しまったようなため息をつく――。いずれにせよ仕事や食事そっちのけで、ずーっと横目で試合中継を眺めている。みなさんの身近にそんな阪神タイガースファンがきっといると思います。もちろん編集部にも何人もいます。一方の巨人ファン、今年は特に、ろくに試合も見ずに結果だけ聞いて、勝ったら喜び、負けたら文句をいう。阪神ファンはもちろん阪神が勝つのが好きだけど、負けても阪神の野球を見るのが大好き。巨人ファンは、巨人が勝ったという結果を知るのが好き、それほど野球そのものを愛していない人が多い気がします。

 で、強引ですが、日本代表のジーコ監督って、もし日本に生まれていたら絶対阪神ファンだったろうなあと、「FOOTBALL Nippon」のジーコインタビューの担当者としては思うのであります。

 7月20日のJリーグ磐田対市原戦、ジーコ監督は視察のために、磐田に現れました。試合はご存じのように、首位攻防にふさわしい素晴らしい試合になりました。磐田のビッグネームたちに対して、市原のまだ一般的には「無名の」選手たちが運動量とシンプルなサイドアタックで対抗。レベルも高く、ゴール前の決定機も多い、2対2の熱戦でした。ジーコ監督もかなり興奮したようで、ハーフタイムまでの観戦予定を無理やり延長。最終の新幹線に乗り遅れることも半ば覚悟して、試合終了まで試合を見極め、本誌のジーコインタビューの筆者・増島みどりさんに、「試合がおもしろくて最後まで動けなかったよ」なんて言い残して、タクシーに飛び乗りました。そう、ジーコ監督はホントにサッカーが好き。やるのはもちろん見るのも愛していて、「1日に5試合見ることもある」と、インタビューでも話してくれました。しかもよく聞くと、そのうちの1試合は、「ビデオを見て試合を分析するのに疲れて散歩していたら、少年たちが草サッカーをやっていて最後まで見てしまったんだ」なんて具合だそうです。

 そしてまた、記憶力がものすごい。現在発売中の本誌「夏号」では、ジーコ監督と実の兄で代表のスタッフの一員でもあるエドゥー・テクニカルアドバイザーの対談を掲載しています。誌面では紹介できなかったのですが、対談は収録当時、ニュースの中心だった「イラク問題」から始まりました。実はエドゥー氏は、かつて代表監督としてイラク代表を86年のメキシコW杯に導いたことがあります。そのころ、ちょうどヒザの大ケガから復帰したのがブラジルのフラメンゴというチームの英雄だったジーコ監督。復帰2戦目が、イラクで実兄が率いる代表との試合だったそうです。で、「当時のアジアではサウジアラビアとイラクにいい選手がたくさんいた。例えば、フラメンゴから点を取ったイラクの○○(もちろん実名)。あれはそのあと、(ドーハの悲劇の時の)日本対イラク戦でも日本からゴールを決めた」といったようなことを、時に監督だったエドゥー氏の記憶違いを指摘しながら正確に再現していました。節目の試合で、相手の監督が実の兄だったとはいえ、当時、すでに世界の英雄として名声を得ていながらも、アジアの無名の選手が気になり、さらにその後の消息をいまだにインプットしている。大のサッカー好きというしかありません。同時にサッカー以外のことは、やりたがりません。本誌のインタビュー中も、撮影中のカメラに目線を送り、ポーズを取ってもらうのは実はひと苦労なのです。

 コンフェデレーションズ・カップ(コンフェデ杯)では予選リーグで敗退、「ジーコ監督でドイツW杯予選は大丈夫なのか」という議論が巻き起こりつつあります。「自由に楽しく」というのが、本誌のインタビューでジーコ監督が明らかにしたサッカー哲学。それに対して「日本人に楽しくというのはまだはやい」「自由にといってももう少しピッチの上で選手たちに約束事がないと勝てない」、さらにコンフェデ杯の采配について「効果的な選手交代が下手なのでは」という意見すら出ています。コンフェデ杯が今年最後の真剣勝負の場だったはずが、12月に「東アジア選手権」が開催されることになりました。おそらく韓国や中国にジーコジャパンは相当苦戦するはず。ジーコ監督の是非がますます盛んに議論されることでしょう。

 ですが、あくまで本番は2005年のドイツワールドカップアジア予選。いくら周到な準備をして、そしてそのとおり90分近くプランどおりに試合を運べても、結果がついてこないのが、フットボールのおもしろかったり、こわかったり、むなしかったりするところだと思います。新しいところからさかのぼると、コンフェデ杯のコロンビア戦。昨年W杯のトルコ戦。シドニー五輪のアメリカ戦。数え出したらキリがありません。ジーコ監督自身もあの黄金の中盤を率いた82年スペインW杯のイタリア戦で、「なんでこんな素晴らしいサッカーをした俺たちがここで負けて、決勝にいけないんだ」という怒りのやり場のない思いをしています。暴論ですが、どうせ結果がどう転ぶかわからないんだし、今のうちは「自由に楽しく」やらせて日本代表の選手たちの可能性に期待しているジーコ監督でいいのでは?と私は思います。

 かくいう私も、一時は日本代表の試合のたびに、一生懸命、批判できるところはないか探していた時期もありました。けれども、ジーコ監督の話を直に聞くうち、宗旨変えしました。変に勝ちにこだわるより、楽しいものを見せてもらったほうがいいかも、と。こんなにサッカーが好きな人なんだから、ついてったほうが楽しいかな、と。もともと巨人よりは阪神のほうが、冷たい巨人ファンより、負けても野球の好きな阪神ファンのほうがいいかなと。ただし、忘れてならないのは、今までのインタビューでもジーコ監督が言い続けていたように、「いちばん楽しいのは勝つこと」「自由にやるには責任も伴う」ということです。サッカーが大好きなジーコ監督は現役時代から、厳しく自分を律してきました。サッカーを裏切るようなことは全くしてこなかったのです。

 もちろん「FOOTBALL Nippon」も、ジーコ監督と日本代表に言うべきことはきちんと言っていきます。本誌の編集長は巨人ファンですし。

(2003年7月22日 木所)

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