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Vol,51 試合中の円陣-多々良学園のサッカー(6 Jan, 2005)

 先日、高校サッカー選手権の準々決勝を駒沢陸上競技場で観てきました。この日のお目当ては多々良学園高等学校。山口県勢として、勝てば55年ぶりのベスト4という快挙になる重要な試合でした。しかし結果は1−2で無念の逆転負け。相手の鹿児島実業とは今年のチームで1勝1敗2分と五分の対戦成績だっただけに、選手たちもとても悔しそうに涙を流していました。
 なのですが勝敗とは関係なく、試合中に印象的なシーンを見かけました。後半、立て続けに攻め込まれ、ゴール前でのピンチを切り抜けた後、ゲーム中であるにも関わらず選手全員で円陣を組んだのです。この円陣を組む行為は、その時が初めてではなく以前にもあったのですが、審判に注意されるまで、まるで結束の強さを再確認するように続けられました。「組織が崩れてきたと感じたときに、しきりなおしのつもりで円陣を組む」とは試合後、多々良学園サッカー部の白井監督の言葉。確かに多々良学園の織り成すサッカーは最終ラインの統制やボールを繋ごうとする意識、ピッチ全体をバランスよく使った攻撃の組み立てなど、組織を前面に押し出した特徴が見て取れました。しかし、この円陣にはもっと深い意味があったのです。

 現在の高校サッカーは、運動量やスピードなど、フィジカルにものをいわせたサッカーが目立っている。そういう感想は決して個人的なものではないでしょう。そんな風潮の中、多々良学園はなぜ組織的なサッカーを標榜するのか。それは、全国で勝つには組織化するしかないからではないでしょうか(あくまで考察ですが)。「(鹿児島実業など)九州勢は国立のピッチを知っているだけに差があった」「九州で強豪同士が(日頃から)対戦していると違う」(共に試合後の白井監督コメント)という言葉からも分かるように、例えば九州には国見や鹿児島実業など、全国でも上位にランクされる高校が多数あります。彼らは地理的に近いこともあり、練習試合を組んで切磋琢磨することが可能です。
 一方の多々良学園は山口県にあって一強時代を築いています。今で12年連続出場となる実績は中国地方にあっても抜きんでたもの。遠征なども頻繁に行えない中、鎬を削りあうライバルが他地域に比べて少ないと言えるかもしれません。加えて現在大活躍を見せているサンフレッチェ広島ユースの存在。中国地方では高校組とユース組に有能なサッカー選手が二分されてしまう独特の事情も裏にはあるのです。そんな特異な境遇の中で全国上位を目指す多々良学園は、個々の力より結束の力、つまり組織としての意識を高めることに活路を見出そうとしました。試合中に見せた円陣は、そんな彼らなりの事情が象徴された姿だった、とも言えるでしょう。

 多々良学園に代表されるように、各地域、各高校にはそれぞれ独特の事情があります。国見のように町をあげてサッカーに取り組む地域がある一方で、県内に有力校がひしめき、有能な選手がばらけてしまう静岡県など、その事情は様々です。そういった事情が、ゲーム中のプレーや行動にふと現れる瞬間があるのは大変興味深いことです。よく、ナショナルチームのサッカーがお国柄を象徴していると言われますが、高校サッカーを見れば、都道府県レベルでの特徴もよく分かる(かもしれない)。またひとつ、サッカーの見方が増えたような気がしました。

(2005年1月5日記)
文=伊藤 亮

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