対象:2009年6月到着分

同時進行の恋
寒竹泉美(29歳)
――今、俺の斜め前のテーブル席にナナミと西山が並んで座っている。後姿しか見えないが、見間違えようがない。西山の腕はナナミの腰に回されていた。それから、二人は見つめあって笑うと濃厚なキスをした。
彼女と友人の浮気現場を目撃した真は、そのまま黙って家に帰ってしまう。実は真にも、他に好きな相手がいた。そして、その相手には年上の恋人がいた。
はたして、恋は同時進行で出来るのか。
二十歳の大学生が、京都を舞台に繰り広げる、恋愛青春ストーリー。
微妙な主人公の気持ちの変化が良く表れている。文章も読みやすく構成もよく考えており、完成度の高さが感じられる。 編集S
登場人物の言ったこと思ったことを書かずとも、情景の描写から登場人物の心情を伝えることがうまい。ストーリー自体は実際にはよくある話だが、この文章力だから面白く読ませられるのだろう。 編集A


非常にうまい人です。描写が、とにかくいい。最初のハラハラする場面から、だれでもすぐに、情景が、人物たちの動きが目に浮かびます。ストーリーのうまさも、うならせます。
でも、欠点もあります。抽象的な、きっとご本人は文学的と思っている比喩が随所に出てきて、いただけない。なぜ入れるのか。きっと、純文学を読んできた人なのでしょう。でも、いまや、そういう表現はやめようと、みんな思っています。
二人の人を同時に愛すること、それをテーマに書き始めた小説でしょうが、おそらく途中から、これは書いているご本人も感じてきていたと思うのですが、真と月野の二人の恋愛物語に変質してきたのではないでしょうか。
せっかく登場人物がそう動いてきたのに、作者が「同時進行の恋」にこだわってより戻してしまった、そんな気がして、そこは残念でした。最初の構想通り書いた小説など、おもしろくも何ともありません。頭のいい人の陥りやすい欠点です。
でも、純文学とエンターテイメントの淡いを行くこの小説は、白石一文さんの『一瞬の光』をどちらのジャンルの賞も評価できずに、でも読者はたくさんついてきた、そのデビューと重なるような気がしました。そういえば、この「俺」で描かれた真は、白石さんの主人公に似ているかもしれません。
まさに、期待の大型新人です。どんどん書いても行けそうな気もします。頑張りましょう、一緒に。本当に楽しみな人が見つかりました。
文芸X出版部長 蓬田勝