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第十一回座談会分からないは面白い──第十一回座談会辰: これより第11回講談社新人賞“Powers”最終選考会を始めます。今年最後の選考会です! も: 今回、最終候補に残ったのは5本ですね。『碧眼のペテン師』『クロイブ』『創作のカミ様』『昨日の空、明日の翼』『変身警報発令中』です。 矢G: ファンタジーからタイムスリップ、異能まで幅広く残った印象です。 辰: 最終候補に入る前に、補欠の1作をちょっとだけ俎上に……『オルファクトリー』という作品。 矢G: おお。いかがでしたか。 辰: ちょっと……面白かった。匂いフェチの男の子が脳内に孔明を住まわせていて、ピンチになると助言をしてくれる(笑)。男子には人気があるけど女子にはさっぱりモテない主人公という設定もいいんだけど、でもなんだろう。やっぱり孔明が唐突すぎるんだよね、なぜ孔明なのかっていう理由があるわけでもないし。 矢G: 軽快さは楽しいのだけど、匂いフェチっていう設定が弱いんですよね。 辰: 主人公が同じクラスの女の子と一緒にバイトして、その子の制服を嗅いじゃうんだけど、異臭がする……。脇の臭いとか。それでもうすぐ、興味を失っちゃう。それは匂いフェチとしてどうなんだろう。 も: わたしその作品読んでないのですが「コウメイ」って何ですか? りゅう: 諸葛亮さんちの。 も: ああ! え、孔明? 矢G: 脳内に小さい孔明がいるんですよ。 も: いやいやいや。 辰: でも時々あらわれる孔明が、可愛くてぐっとくるんだよね。涙ぐむようなエピソードもあって。孔明が一度消えちゃうんだけど、主人公が孔明にもう一回出てきて欲しいって願う。で、女の子にビンタされると、孔明が戻ってくる。三回ビンタされるから、ビンタ三顧の礼。 一同: あははははははは。 慎GO: 面白い。それは超ウケる。 辰: 最後は孔明自ら消えちゃって。花火を見に行こうって言って。 りゅう: (あらすじをめくりながら)「孔明が突然花火を見に行きたいと言い出す」「そこで孔明は最後の策を講じたのであった」。 慎GO: 最後の策ってなんだったんですか? 辰: 主人公を花粉症にさせて、匂いを嗅げないようにした。 慎GO: なるほど。 辰: まあ、そのへんも甘いんだよね……。なんで急に花粉症になるのか曖昧だったし。 りゅう: いま歴史上の人物を美少女に置き換えた作品多いじゃないですか。『戦国BASARA』とか『僕とツンデレとハイデガー』とか。孔明は……。 矢G: おじいちゃんだったよ! 慎GO: まんまなんだ。 りゅう: 地の文楽しいですね。 矢G: すごい好感が持てますよね。 辰: 女の子が可愛い。 矢G: 厭味のない文章です。 りゅう: 孔明、本当に孔明だ。 慎GO: そこはちゃんとこだわりがあるわけね。 りゅう: 萌えますねー孔明。でも策が……。 矢G: すごいしょぼいんだよね。 一同: あははははははは。 辰: 普通のアドバイスなんだよね。 矢G: 全然、策ではない。でも、わたしが今回読んだ中では一番面白かったです。 辰: 僕も一番笑ったのはこれなんだよね。ただ、小説として読むとき、核になる部分にはもう一押し細部まで作りこみが欲しい。才能あると思います。 矢G: 読者を納得させる作りこみで、また送ってきて欲しいです。 辰: それでは最終選考に入りましょうか。まずは『碧眼のペテン師』から。 も: 特殊機関に所属する凄腕イケメンエージェント(24)が麻薬密造ルートを潰すために高校に潜入するという話です。ストーリーは至極単純なのですが、主人公のとぼけた軽妙な感じが面白くてさくさく読めました。スパイものは映画なら『インファナルアフェア』とか有名なのもありますし、高校に身分を隠して潜入するのなんてそれこそ土曜九時のドラマでしょっちゅう放映されてるように先行作品が多いので、それらと比べてしまうと一直線なストーリーで物足りなさはあります。ただ、主人公をめぐる設定の積み重ね、配置が絶妙でこれは女子向けPowersだ! と思って推薦しました。 辰: 女子ウケするの? りゅう: ニコニコしながら読みました。すごく楽しかったです。 慎GO: どのへんにニコニコしたの? 辰: いかに主人公がかっこいいかっていう描写? 最後の残虐シーンの立ち回りとか。 も: いちいちツボに嵌るギャップですかね。人間離れした運動能力をもっていながらサッカーやったことなくて授業中に焦ったり、大事な殺戮をするときに、お兄ちゃんから電話がかかってくるという点ですよ。 りゅう: そうですそうです。お兄ちゃんが一番肝だなって思います。導入も、主人公が戦ってる姿をお兄ちゃんが衛星使って監視しながら家族電話。馬鹿じゃないのって思いつつ、きゅん、ときました。浅見光彦を思い出しました、家・仕事・現場の人間関係が交錯する流れに。 慎GO: ふむふむ。家族の描写ね。 辰: なるほど。そういう所に女子はぐっとくるんだ。 も: 全然わからなかったんですか(怒)。 辰: 全然わからない、全然わからない。 も: さっきも言いましたが、ストーリー自体は既視感があるんですよね。それだけ人気のあるジャンルなんだろうとは思いますが。 辰: 最初から、この学校に麻薬があるらしいとわかっていて、それが最後まで覆らないでしょう。一本道なストーリーだなと思った。謎かけとかも一切ないもんね。 矢G: しかも麻薬もどういう麻薬かってあんまり書いてない。 も: 突き詰めるとディテールが甘いの一言に尽きるんですよね。この作者の興味の強弱が分かりやすいです。力を入れて書いてあるのは主人公を取り巻く環境で、その一つはその兄との「家」の問題、もう一つは「組織」。二つの立ち位置のなかで右往左往しながら高校に潜入する様子は非常に読んでて面白かったです。あと主人公が女子と一切関わらないんですよね。男の世界。だいぶ読者を限定するだろうと思ったのでどうかなと思ったら……。 りゅう: 打ち抜かれました。 も: 案の定りゅうさんが。 矢G: 女子向けっていうか限定的な女子向けですね。 慎GO: ふ、腐女子向け? 矢G: あ、わたし言わなかったのに。(笑) りゅう: えー。 矢G: わたしは、キャラがかっこいいわりに、やることのスケールが小さいなと思いました。こんなに強いのに、麻薬取り締まるだけなんだ、って。 慎GO: 俺も、それだったらギャグにしちゃったらよかったなぁと思いました。本人のかっこつけた振舞いと、実際にやってることとのギャップを明確にして笑いをとる。 も: いやギャグにしたら台無しですよ! りゅう: 完全にかっこいいからいいんですよ。 慎GO: う、大真面目にやってるからおかしくて。かっこいいかなぁ? 辰: 女子ウケするキャラはしっかり作れてるってことなのかなあ。 りゅう: サイコパス的な人物を書くのがうまいなって思いました。主人公が論理的に変じゃないですか。変な人にしようって無理にキャラ付けするんじゃなくて、主人公の中では一本筋の通った動機でいつも動いてるのに、一般倫理に照らすと異常、というのがすごく自然に書けてる。 辰: なるほどね。基本的には優しいキャラだよね。 りゅう: 優しいんですけど、どっか変。 辰: なにか欠落してるってことでしょ。 りゅう: はい。たとえば、同級生が無茶な頼みをしてきたとき、思慮の足りない子供らしい意見だなぁって思ったあと「だから可能な限り尊重してあげよう」って考えるんですよね。思慮の足りなさじゃなくて、子供のほうに重きを置いちゃう。 辰: たしかにキャッチコピーには「彼は心優しい人間で、彼は異形の化物だ」って書いてある。そんな二面性を書きたかったのか。ただ、文章がものすごく回りくどくて、そのわりに細かい描写は甘いところが気になった。たとえば「心優しい顔をしていた」とか。そういう主観的な描写じゃなく、どんな顔なのかを地の文では客観的に書いてほしい。 も: そうですね。文章表現で甘い部分もあるし、ストーリーも一直線です。でも、そこをきちんと指摘することで改善できればと思います。この二面性をもった主人公がどう家族と組織と向き合っていくのか、続きを読んでみたいです。 矢G: では次に行きましょうか。 りゅう: はい。次は……『クロイブ』。 慎GO: あらすじが、難しいんですよね。クロイブという謎の学内組織に属している高校生の話です。序盤ではその組織の全容は分からないんですよね。で、主人公が唯一仲良くしている女の子の頼みで、恋の……なんていうんだっけ。 も: キューピッド? 橋渡し。 慎GO: そう。橋渡しをすることになったんだけれども、そこにクロイブの連中が復讐劇を持ちかけてくる。クロイブの個性的なメンバーが一人ずつ現れて、組織の正体がだんだん明らかになっていくところが面白かった。あと、2話目でクロイブ入部を渋っていた主人公が人質をとられて屈してしまう、そのあたりのダークな展開が持ち味です。これも好き嫌い分かれるでしょうね。『碧眼のペテン師』とはまったく逆な方向で。 りゅう: うーん、わたしこれすごい難しかったです。何が書きたい話なのかわからなくって。特に主人公の立ち位置がどこにあるのかな、と。 も: 『クロイブ』は、主人公が能動的に事件に関わろうとする感じが全然なかったですね。主人公がクロイブにいるのは何故かという謎があって、後半で実はこういうことだったんだぜ、って明かされる構成になってます。でも終始受身でしたね。 辰: 時間軸が第一章と第二章と逆転しているのは、続き物を意識した構成なんだろうね。 も: あまり効果的に働いてないと感じましたね。起こっている恋愛沙汰にまず、興味が持てなかった。人を動かさないならその分事件を動かさなきゃいけないのに、肝心の事件が「誰々ちゃんが誰々に告白した」だから、引き込まれない。 辰: 第一章の“黒さ”が全然足りてないような気がしますね。クロイブがただ意地悪なだけの集団になってしまっている。 慎GO: 何度か応募してくださってる方なんですよね。前回が『君といつまでも』。これは矢Gさんが読んだんだっけ。 矢G: 覚えてます。でも『君といつまでも』はもっと一本調子な話でここまでの仕掛けはなかったような気がしますね。『クロイブ』のほうが構成的に凝っているし、ストーリーも面白い。 辰: 今年から毎回応募してくれてるんだね。よく書けるなぁこんなに。 りゅう: タイトルも全部違うから、別作品なんでしょうね。 矢G: 気になる才能、ではある。 辰: 大きなお話を作ろうっていう意志は感じられますよね。構成面では工夫も見える。 慎GO: あとは中身ですね。 りゅう: キャラクターの掘り下げじゃないでしょうか。小さな事件でも、キャラがもっと立ってればぐっと面白くなりそう。 も: ミステリっぽいの書けそうな気もするし、異能ものっぽいの書けそうな気もするし。方向性が定まれば。 慎GO: そうですね。たくさん書いてほしいですね。これからに期待しています。 辰: 次に行きましょうか。『創作のカミ様』。授業で書いた小説の評点がそのまま学内で使える通貨になる、という全寮制の文学高校が舞台のお話です。いい小説を書いて十万ポイントもらうと、月十万円。で、この主人公の男の子みたいな劣等生は、月八十円で生活しなきゃいけない。 矢G: 格差社会だ。 辰: その文学高校には、物語を書き込むとヒロインの女の子が現実化する不思議な本のうわさがある。その本をたまたま主人公が拾って、小説を書き込むと、本当にヒロインが現れる。ただ、それは前の持ち主が生み出したヒロインの存在を消してしまう行為だったことがわかってくる。消されてしまったヒロインを取り戻すために、前の持ち主が主人公の前にあらわれる──そういうお話ですね。脇役もすごくよくて、特に幼馴染の女の子、梨花ちゃんの造形が光っていた。ヒロインの女の子よりむしろ梨花ちゃんのほうが記憶に残ってる。 りゅう: 不可逆性っていうんでしょうか。主人公が物語を上書きすることで新しいヒロイン・八王子さんが生まれて元のヒロイン・朱音ちゃんが消えてしまうんですよね。そこから「朱音ちゃんの物語」を書き直しても、元の朱音ちゃんには戻らない。取り返しのつかなさが、すごく細かに書かれている。あと、始まりはわいわい軽いのに、「もしかして誰かを殺してるんじゃないか」の一言で雰囲気がガラッと変わる、切り替えがすごい好きです。ただ、わたしは逆に脇役に力を入れすぎたのが残念だな、と思いました。八王子さんが「一人の人間として愛されたい」って主張するところ、すごくいいクライマックスなんですけれど説得力がないな。八王子さんと主人公の間に積み上げてたものがないので。 辰: たしかに、ヒロインの八王子さんはもっと活躍してほしいよね。 慎GO: 八王子さんのキャラがもうちょっと好きになれるとよかったんですけど。 辰: ただ、誰かの幸福は他の誰かの悲しみに支えられている、という全体のテーマをしっかり見据えていて、そこがブレないんだよね。そういう物語を書きたいっていう意思が伝わってきて、とにかく好感が持てる。 矢G: 文学高校って設定をやめた方がよかったんじゃないでしょうか。これをやめればもっと、“創作に対する必死さ”みたいなものが強調できたはず。同じクラスには全国的に評価されている少女作家がいて、一方の「僕」は隠れて小説を書いては投稿、落選していて……というふうに。そうすれば、八王子さんへの読者のシンパシーが強くなって、「僕」の気持ちに寄り添いやすい。結構この舞台設定は読者を振り落とす設定だと思います。バッタやゴキブリの小説がどうだったというあたり、わたしは読んでてイラっとしてしまった。 慎GO: ダメですか。 矢G: 可愛い子ぶってる感じが鼻につく。 一同: あはははははははは。 りゅう: 変な人を変な風に書こうとしてますよね。『碧眼のペテン師』と対照的に。 矢G: 変な設定に逃げずに正面から投げてきてくれたら、こう、刺さる小説になる気がする。もしかしたら、作者の方が小説書いてる自分に照れくささがあるのかな。だからこんな文学高校みたいな設定を作っちゃうのかも。 辰: 本当はあるんだと思うんだよね、この作品とは全然違うこの人が書きたい世界が。ただ、ライトノベル的な仕掛けを意識して、ここまで書けちゃうっていう底知れない力がこの人にはあると思う。 も: 最後の感情の発露は、とても熱かったです。あんまり最近は見ない熱いセリフを真っ直ぐに書いていました。ストレートに胸に響くセリフを綴れるのは才能だと思います。 りゅう: ぜひまた送ってきてほしいと思います。読みたいです。 辰: 次に移りましょうか。『昨日の空、明日の翼』。 慎GO: 現代の男子高校生が、太平洋戦争の真っ只中にタイムスリップしてしまう。そこで、零戦のパイロット訓練生になるんです。ただ、戦況がどんどん悪くなってとうとう特攻に行くことになってしまいます。しかし出撃直後、なぜか彼だけが現代に戻ってきてしまう。そこで普通の高校生活を再開するんだけれども、過酷な時代を生きている仲間達と出会ったことで、自分はこんなことやっていていいんだろうかと葛藤するわけです。 辰: 主人公は最終的に過去の時代へ戻ろうと決意する。でも、失敗してしまうんですよね。それでも向こうの時代の戦友には彼の姿が見えていたと。 慎GO: そうそう。今回読んだ作品の中ではベストです。 矢G: 今回の応募作の中で頭一つ抜けていました。文章がとてもうまい。ストーリーも、あらすじだけ読むとベタなんですけど、読んでみると意外なくらいに現代性を盛り込もうとしているところがある。 辰: 使い古されてるイメージもうまく盛り込んで、綺麗にお話を作っているように感じました。特攻に臨む早稲田の野球部の学徒兵とキャッチボールをするシーンに、僕はぐっときました。いかにもなストーリーラインなんだけど、でもどうしてもぐっときちゃう。完成度は高いと思う。零戦のディテールとか、ディズニーの『ファンタジア』の挿話を入れたりとか、さりげない演出も上手。 慎GO: 相沢が帰ってきた途端、性格が変わってしまいますよね。あまりにも洗脳されすぎちゃってて、現代に戻ってもあんまり主体が残ってない。過去でも、特攻に自分からは志願できず流れに身を任せちゃう。 りゅう: 過去に戻ろうとしたところで初めて主体的に動いたのに、結局戻らせてもらえない。ネジを抜かれちゃう。それがかなしかった。 も: もうちょっと、現代に帰ってきたときの描写があんなマッドではなく、女の子から見てほっとけない感じとかかつての彼と今日の彼との変化が上手く書けてたら読者が共感できるんじゃないかなぁと思います。 辰: こういう硬派な内容でもしっかり女の子を出してくるのは、講談社BOXを意識してくれたってことなのかな。 も: どの女の子ですか? 辰: あの主人公の同級生の。現代パートの語り手で、一緒に海に行った別の男の子に告白されたりする女の子。あの男の子は、石川くんだっけ? ああいうイケメンキャラにはぐっとこないの? りゅう: 初出から、相沢を際立たせる当て馬なんだろうなぁと思ったらその通りで、あんまりどきどきしなかったです。あの子は、相沢がいない間に石川くんと付き合ってたほうがよかったのかなと思いました。相沢と石川くんどっちを取るの、みたいな。過去と現代の価値観の対立をそこに出してほしかった。 慎GO: それは言える。タイムスリップしたことの影響が本人たちにうまく落ちてない。時代を行き来したことによって、現代なり過去なりが変わるパラドックス的な面白さが生かされてないんですよね。ありがちだけど、現代の誰かがいなくなるとか、そういう危機があっていい。 辰: うーん、土台がしっかりしてるだけに色々言いたくなってしまう。 りゅう: 読み終わった後、映画の予告編ムービーになったイメージがぱーっと浮かびました。もう、予告で全部分かっちゃうんだろうな。相沢が過去に戻るために、制服を着込んで零戦に乗り込むところまで流れる。それで映画館のわたし号泣。 一同: あははは(笑)。 も: 映像制作関係の方に聞いたんですが、映像化したい作品を探すとき、予告が作れるかどうかを想像するらしいですよ。映画館で、本編前に流れる二分間の予告ムービー。その二分間で何をウリにして見せるか。それを見た人が、本上映をちゃんと見にきてくれるっていう。 辰: たしかにそれは大事だよねぇ。 りゅう: そしたらこの作品は向いていそうですね。視覚や音の使い方が印象強いです。「翼をください」と「若鷲の歌」を歌うところとか。 慎GO: そうそう。テーマソングとして流れて。 も: それでもう予告でみんな。 慎GO: 「ガーーッ」と号泣。 矢G: 予告編だけで……!! も: 涙、涙。いいじゃないですかこれ。 辰: うん、ベタだからこそのよさがある。 も: さてさて。次に行きましょうか。最後は『変身警報発令中』。 辰: 完全なファンタジーですね。二つの精霊のエネルギーによって成立している世界。でもバイクが走ってたり商店街があったり、現代の日本みたいな雰囲気もあるベルサンド共和国が舞台。二つの精霊はそれぞれ、保守と変革の精霊を司っていて、変革の精霊をうまく使うと変身して能力を高めることができる。ただ、とんでもない精霊もいて、下手に使うと巨人化しちゃったりする。世界観が固有名詞に至るまでしっかり作ってあって、キャラもよく造形されている。最近で言うと『進撃の巨人』や『ベルセルク』みたいな人気作品を意識しているのかはわからないけれど、作者なりに作り込んでいる。その努力をまず評価して残しました。ただなにかどこかで見たことあるようなお話だなっていうのは、正直あります。女の子のキャラも類型的で……。 りゅう: なかなか世界に入りこめなくって、読み進めるのに苦労しました。でもテロリストカップルの正体のところまでくると、もう入り込んじゃって、おお〜って。思わず声が出ました。 辰: そう、動き出すまでに時間かかるよね。ダメかなぁと思ったけど、読んでるうちに思ったよりずっとちゃんとしてるかなと思わせてくれた。ただ、タイトルが悪すぎる。 も: 変身警報……。 慎GO: 発令中……。うーん。僕はこの世界に今ひとつ入り込めませんでした。序盤の造語の説明がもっとすっきりしているとよいのですが。それと、コンビを組む年下の女の子の精霊が、定金伸治さんの『四方世界の王』のシャズそっくりだなぁと思って。そうしたら、人生で一番影響を受けた小説に名前が挙がっていた。 矢G: たしかに正体明かしてからのラストもシャズを彷彿とさせますね。 も: なんだろう、全体的にゲームの文章っぽいのかなぁ。やたらビックリマークから会話が始まっていて違和感が……。 辰: え、文体でダメだったの? もっと読み込もうよっ。 も: いや、読みましたよ! 辰: ごめんごめん、でも僕だって苦手だったよ最初。 りゅう: 辰さんは世界を作りこんでるっておっしゃってましたけど、わたしは設定が甘く感じます。たとえば、公務員って言葉がぽんっと出てきたり、インフラが曖昧だったり。書きづらいところをぼかすために、異世界にしましたみたいな感じがしました。 辰: でも、相棒が刀になるんだよ。 りゅう: そこは、好きです。車と同化。ロマン。大好き。 辰: この人はとにかく書きたいように書いてるんだよね。その潔さがいいな、と。──そろそろ、賞の選考に入りましょうか。……みんなの意見を総合すると、『昨日の空、明日の翼』なのかな。Powersにもっとも手が届きそうなのは。 慎GO: そうですね。 りゅう: わたし、本で読みたいのは『碧眼』です。 辰: ペテン師!? いやぁ……。これを本にするって考えたら……まず文章の基本的な部分から徹底的に作り直していかざるをえない気がして、途方に暮れちゃうなあ……正直。 慎GO: キツそうですよね。 辰: この人……。どっかで躓いちゃうと思う、このままでデビューさせちゃうと。文章を甘く見ちゃいけない、小説は文章だけでできてるんだから。 も: でも、わたしがBOXに来て、一番女性読者を狙えそうだなと思ったのはこれです。文章力は書き続けることで上がりますし。この人がよりリアリティーのある世界設定の構築をどこまで粘って直せるか、一緒にやってみようと思います。 辰: なるほど……そこまでの気持ちがあるなら,かけてみてもいいかもね。この人に。では、『昨日の空、明日の翼』。この作品はどうしますか。 も: これはもうPowersでいいんじゃないですか。 慎GO: Powersで行きますか。出版めざして。 辰: 主人公が初めにタイムスリップしたときのシーンとか曖昧な部分はちゃんと書いたほうがいい。女の子の硬さ云々は根本の所だから難しいかもしれないけど。あとラストか……。結局戻れないんですもんね、もう一度過去には。 りゅう: 最後もうちょっと相沢の思いを語り手の女の子が受け止めてあげてほしいですね。彼女は最初から最後までほとんど心境変化がないじゃないですか。止めるシーンも浅くなっちゃうかなって。 慎GO: 泣かせる方向で。 も: 号泣。 辰: なんとしても夏までに出すべきですよ。 慎GO: タイトル換えるとしたら「タイムスリップ特攻隊」かな、それじゃ軽すぎだね。 も: 上手く専門用語とか入れてるからちゃんとした文章に見えるんですけど、あんまり頭に入ってこないですよね。 辰: あれ? ここにきて急にマイナスの意見が。 りゅう: でも泣きました。揺さぶられました。 辰: 慎GOさん、Talentsで本出すか、Powersで本出すかですよ。 も: 慎GOさん以外に担当したい人は? りゅう: わたし、世界を壊しちゃう気がします。 も: わたし、登場人物全員男にするかもしれない。 辰: 男の友情ものにするってことか。変に女の子出さないほうがいいのかな。 も: 出すとしても妹とか、そういうポジションでしょうか。 りゅう: いや、これは恋愛をもっと強く出したほうがいいと。 慎GO: 収拾がつかなくなってきたな。ともかくPowersでいきましょう! 僕が担当します。 りゅう: おー。 辰: そうしましょう。 一同: (拍手)。 辰: 第十一回講談社新人賞“Powers”は、Powersに『昨日の空、明日の翼』。Talentsに『碧眼のペテン師』と決まりました。 も: 今年最後に、Powersが出ましたね。おめでとうございます。 辰: 次回第十二回からは、これまであったTalentsやStonesを廃止して、出版を大前提としたPowers受賞作を前向きに絞り込む、という選考スタイルに変更いたします。Powers受賞作は、できるかぎり毎回選出する。改稿が必要な場合は、受賞者と担当編集者が互いに納得できるまでとことん改稿を重ねて、必ず出版する。そんなイメージで、いきます。今後とも、講談社BOX新人賞“Powers”をよろしくお願いいたします! 「あなたにしか書けない物語」を、ぜひお待ちしております。 |