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あとがきのあとがき

『幻獣坐』

三雲岳斗 (みくもがくと)

profile

大分県生まれ、横浜市在住。 ’98年『コールド・ゲヘナ』で第五回電撃ゲーム小説大賞《銀 賞》を受賞し、デビュー。ロジカルな謎解と魅力あるキャラで人気を博し、さまざまなジャンルを飛び越えて活躍している。

 狂気が足りない。かつてある企画でご一緒した、講談社の編集の方に言われた言葉です。あなたの作品は面白いけれど、狂気が足りない。いつかあなたの描く狂気を見てみたいね、と。

 ずいぶん昔の話ですが、そのときの彼の言葉は僕の中に、小さな棘のようにずっと突き刺さったままでした。そしてこの『幻獣坐』という作品の着想を得たときに真っ先に思い出したのも、やはりその、狂気を見てみたい、という言葉でした。

 現在の担当さんから、講談社ノベルスで作品を出しませんか、という連絡をいただいたのは、まさにその直後の出来事で、大袈裟にいえば運命、あるいは因縁めいたものを感じたことを覚えています。

 この作品はそんなふうに、まるで歯車が噛み合うようにいくつもの必然が重なって生まれてきたものです。おそらく『幻獣坐』という物語は、今この時機、この場所で書かれなければいけなかったのだろうと思います。

 本作には二人の主人公がいます。

 愛情に満ちた家庭で育ち、無垢でありながらも「幻獣」という禍々しい力を与えられてしまった少女、藤宮優々希と、自分の目的のために彼女の力を利用しようとする少年、久瀬冬弥。本作で描きたかったのは、積み上げたロジックによる駆け引きだけでなく、二人の主人公と、彼らを取り巻く人々の剥き出しの感情のせめぎ合いでした。

 愛情と憎悪、悪意と悲嘆、そして狂気。

 そのような過去の自分が避けてきたテーマに、今回はめずらしく正面から取り組んでます。それがこの『幻獣坐』を、自分にとって特別な作品にしています。そのせいで、これまで巧みに隠蔽してきた、作者の悪意と性格の悪さが、思い切り表出してしまったような気もするのですが……

 さて『幻獣坐』という作品で描いているのは、様々な人々の歪んだ「想い」です。

 ですが、単純な狂気そのものを体現するような人物が、作中に登場することはありません。では本作で描かれる狂気の形とは、いったいどのようなものなのか。

 それについてはできることなら、読者の皆様がそれぞれご自身で確認してもらいたいと思っています。この作品の執筆にあたって、運命のような力が働いているのなら、それを誰かが読んでくれることにも、きっと何か意味があるのだと思います。

 どうかよろしくお願いします。

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