狂気が足りない。かつてある企画でご一緒した、講談社の編集の方に言われた言葉です。あなたの作品は面白いけれど、狂気が足りない。いつかあなたの描く狂気を見てみたいね、と。
ずいぶん昔の話ですが、そのときの彼の言葉は僕の中に、小さな棘のようにずっと突き刺さったままでした。そしてこの『幻獣坐』という作品の着想を得たときに真っ先に思い出したのも、やはりその、狂気を見てみたい、という言葉でした。
現在の担当さんから、講談社ノベルスで作品を出しませんか、という連絡をいただいたのは、まさにその直後の出来事で、大袈裟にいえば運命、あるいは因縁めいたものを感じたことを覚えています。
この作品はそんなふうに、まるで歯車が噛み合うようにいくつもの必然が重なって生まれてきたものです。おそらく『幻獣坐』という物語は、今この時機、この場所で書かれなければいけなかったのだろうと思います。
本作には二人の主人公がいます。
愛情に満ちた家庭で育ち、無垢でありながらも「幻獣」という禍々しい力を与えられてしまった少女、藤宮優々希と、自分の目的のために彼女の力を利用しようとする少年、久瀬冬弥。本作で描きたかったのは、積み上げたロジックによる駆け引きだけでなく、二人の主人公と、彼らを取り巻く人々の剥き出しの感情のせめぎ合いでした。
愛情と憎悪、悪意と悲嘆、そして狂気。
そのような過去の自分が避けてきたテーマに、今回はめずらしく正面から取り組んでます。それがこの『幻獣坐』を、自分にとって特別な作品にしています。そのせいで、これまで巧みに隠蔽してきた、作者の悪意と性格の悪さが、思い切り表出してしまったような気もするのですが……
さて『幻獣坐』という作品で描いているのは、様々な人々の歪んだ「想い」です。
ですが、単純な狂気そのものを体現するような人物が、作中に登場することはありません。では本作で描かれる狂気の形とは、いったいどのようなものなのか。
それについてはできることなら、読者の皆様がそれぞれご自身で確認してもらいたいと思っています。この作品の執筆にあたって、運命のような力が働いているのなら、それを誰かが読んでくれることにも、きっと何か意味があるのだと思います。
どうかよろしくお願いします。
- 『セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎』 天祢涼
- 『プライベートフィクション』 真梨幸子
- 『カマラとアマラの丘』 初野晴
- 『増加博士の事件簿』 二階堂黎人
- 『戦車のような彼女たち』 上遠野浩平
- 『カンナ 京都の霊前』 高田崇史
- 『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹
- 『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』 北山猛邦
- 『天山の巫女ソニン2 海の孔雀』 菅野雪虫
- 『さよならファントム』 黒田研二
- 『アケローンの邪神 天青国方神伝』 高里椎奈
- 『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』 二階堂黎人
- 『空を飛ぶための三つの動機THANATOS』 汀こるもの
- 『QED 伊勢の曙光』 高田崇史
- 『闇の喇叭&真夜中の探偵』 有栖川有栖
- 『バミューダ海域の摩天楼』 柄刀一
- 『虚構推理 鋼人七瀬』 城平京
- 『メルカトルかく語りき』 麻耶雄嵩
- 『生霊の如き重るもの』 三津田信三
- 『古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介
- 『縛り首の塔の館 シャルル・ベルトランの事件簿』 加賀美雅之
- 『シンフォニック・ロスト』 千澤のり子
- 『ハウンド 闇の追跡者』 草下シンヤ
- 『聖地巡礼』 真梨幸子
- 『夜の欧羅巴』 井上雅彦
- 『眠り姫とバンパイア』 我孫子武丸
- 『ひなあられ』 日日日
- 『燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿』 篠田真由美
- 『小鳥を愛した 容疑者』 大倉崇裕
- 『琅邪の鬼』 丸山天寿
- 『薔薇を拒む』 近藤史恵
- 『光待つ場所へ』 辻村深月
- 『星々の夜明け フェンネル大陸 真勇伝』 高里椎奈
- 『幻人ダンテ』 三田 誠
- 『キョウカンカク』 天祢 涼
- 『プールの底に眠る』 白河三兎
- 『幻獣坐』 三雲岳斗
- 『妖精島の殺人 上・下』 山口芳宏
- 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 辻村深月
- 『奇蹟審問官アーサー 死蝶天国』 柄刀一
- 『残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO』 上遠野浩平
- 『萩原重化学工業連続殺人事件』 浦賀和宏
- 『トワイライト・ミュージアム』 初野晴
- 『完全版 地獄堂霊界通信(1)』 香月日輪
- 『無貌伝〜双児の子ら〜』 望月守宮






















