突然だが、私の名刺はすごくかわいい。リバーシブルになっていて、片面は黒地に桜色でライター名義と連絡先、反対側はピンクの桜模様に〈作家 千澤のり子〉とだけ表記されている。デザイナーの友人がプレゼントしてくれたものだ。
「しか(私の通称)の仕事は歴史に名を残せるんだよ。友達として誇りに思ってる」
原稿が没になったすぐ後、友人は私に言った。彼女は、中学時代の吹奏楽部の仲間だ。部長を務め、人気者で、実力もあった彼女。逆に、人より練習していてもまったく上達せず、孤立していた自分。憧れていたのは、私の方だった。ダメなままじゃダメだ、意地でも刊行してみせると思った。
あの頃の感情をそのまま詰め込んでみようと、なりふりかまわず書いた二回目も没。登場人物たちの動きが不自然、ストーリーがぶつ切れ、トリックが活かせてないとのことだった。「まったく真相を知らない人の意見が気になりますね」ということで、三回目の書き直しの後、信頼できる人にモニターをお願いした。その後さらに総修正をして提出。しかし、それでも没。青春の熱さが足りないと指摘を受けた。人情に厚く見えるけど、実はあらゆる点で冷めているという性格が、仇となったのだ。
とにかく感情的になれるようにと、カラオケに通いまくり、ネット上で人と交流できるゲームを続け、大勢の人と語り合える機会を持つようにした。他人をもっと温かい目で見つめようと心がけ、不眠不休で書いたら、ようやく承諾を得られた。さらに、全体のバランス調整と伏線の追加で、校正中も大幅に手を加えている。いったい何回書き直したのだろう。思い出すのも怖ろしい。
こうして『シンフォニック・ロスト』は世に出た。だが、無冠無名の若輩作家に、現実は厳しい。現在七十軒ほどの書店まわりを行い、世間の風の冷たさを実感している。それでも幸い、目にする感想は、ありがたいものが多い。自分の願いどおり、再読せずにはいられない作品らしい。
結果の出ない努力はかっこ悪いと、ずっと思って生きてきた。でも、ひとつのことにひたむきになってる姿って、実はかっこいいのかもしれない。頑張っていれば、誰かがきっとあなたを見ていてくれる。本書には、そんなテーマが隠されている。
そうそう、騙されたと思って手にとってみてください。ほんとに騙されますから。
- 『セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎』 天祢涼
- 『プライベートフィクション』 真梨幸子
- 『カマラとアマラの丘』 初野晴
- 『増加博士の事件簿』 二階堂黎人
- 『戦車のような彼女たち』 上遠野浩平
- 『カンナ 京都の霊前』 高田崇史
- 『魔境の女王陛下 薬師寺涼子の怪奇事件簿』 田中芳樹
- 『猫柳十一弦の後悔 不可能犯罪定数』 北山猛邦
- 『天山の巫女ソニン2 海の孔雀』 菅野雪虫
- 『さよならファントム』 黒田研二
- 『アケローンの邪神 天青国方神伝』 高里椎奈
- 『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』 二階堂黎人
- 『空を飛ぶための三つの動機THANATOS』 汀こるもの
- 『QED 伊勢の曙光』 高田崇史
- 『闇の喇叭&真夜中の探偵』 有栖川有栖
- 『バミューダ海域の摩天楼』 柄刀一
- 『虚構推理 鋼人七瀬』 城平京
- 『メルカトルかく語りき』 麻耶雄嵩
- 『生霊の如き重るもの』 三津田信三
- 『古道具屋 皆塵堂』 輪渡颯介
- 『縛り首の塔の館 シャルル・ベルトランの事件簿』 加賀美雅之
- 『シンフォニック・ロスト』 千澤のり子
- 『ハウンド 闇の追跡者』 草下シンヤ
- 『聖地巡礼』 真梨幸子
- 『夜の欧羅巴』 井上雅彦
- 『眠り姫とバンパイア』 我孫子武丸
- 『ひなあられ』 日日日
- 『燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿』 篠田真由美
- 『小鳥を愛した 容疑者』 大倉崇裕
- 『琅邪の鬼』 丸山天寿
- 『薔薇を拒む』 近藤史恵
- 『光待つ場所へ』 辻村深月
- 『星々の夜明け フェンネル大陸 真勇伝』 高里椎奈
- 『幻人ダンテ』 三田 誠
- 『キョウカンカク』 天祢 涼
- 『プールの底に眠る』 白河三兎
- 『幻獣坐』 三雲岳斗
- 『妖精島の殺人 上・下』 山口芳宏
- 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』 辻村深月
- 『奇蹟審問官アーサー 死蝶天国』 柄刀一
- 『残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO』 上遠野浩平
- 『萩原重化学工業連続殺人事件』 浦賀和宏
- 『トワイライト・ミュージアム』 初野晴
- 『完全版 地獄堂霊界通信(1)』 香月日輪
- 『無貌伝〜双児の子ら〜』 望月守宮























